文藝歴譜タイトル

湊 かなえ (1973.1.?−)
みなと・かなえ(女性)
1973(昭和48)年、広島県因島市生まれ。武庫川女子大学家政学部卒業。
子供の時から空想好きで、江戸川乱歩や赤川次郎の作品に親しんで育つ。
大学卒業後はアパレルメーカーに就職し、青年海外協力隊隊員として南太平洋のトンガに2年間赴いた。
その後、兵庫県・淡路島の高校で家庭科の非常勤講師となり、結婚を気に執筆活動を開始。
2005年、第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選。
2007年、第35回創作ラジオドラマ大賞受賞、「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。
2009年、「聖職者」から続く連作集『告白』が第6回本屋大賞を受賞。
2012年、『望郷、海の星』で第65回日本推理作家協会賞を受賞。
2016年、『ユートピア』で第29回山本周五郎賞を受賞。

*読んだ著書*/著作リスト


告白
(2008年刊/双葉社)
映画『告白』(2010年日本)

〔概要〕
「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
愛娘を校内で亡くした女性教師が、終業式のホームルームで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」、「犯人」、「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。

〔感想〕
すごく面白かったです。衝撃的な結末に後味の悪さを覚えてしまう向きもあるようですが、
世の中すべての作品がハッピーエンドというわけではないし、こういうのもアリかなぁと思います。
この作品は、とにかく構成が秀逸。「概要」の冒頭に書いた有名なセリフでしめくくられる第1章の巧さはもちろんのこと、
それ以降の「告白」も、ひとつの事件の真相に多角的に迫っていくスリリングさがあります。
本作の主張として挙げられるのは「少年法への疑問提示」だと思うんですが、僕自身、少年法には
疑問を感じているだけに、昨今多発している若年層による凶悪事件への何らかの働きかけになればいいなと思います。
年齢に関わらず、やっぱり罪は裁かれなければならないと思うんですよね。
本当の「救い」、「贖罪」とは何か。それを考えさせられる傑作だと思います。

評価/★★★★☆


贖罪
(2009年刊/東京創元社)

〔概要〕
取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。
そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。
犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた
激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる−。
−これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?
衝撃のベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリ。

〔感想〕
これまた、すごく面白かったです。どうしても『告白』とダブって見てしまう部分もあるんだけど、
それでも魅力的な作品であるのは間違いないと思います。
作品中に起こってしまう罪の連鎖がちょっと出来すぎというか、うまく続きすぎのような気もするけど。
登場人物が一人称で語る、独白形式のスタイルは、完全に「湊かなえ節」として確立した感がありますね。
この作者はダークな作品ばかり続いているので、逆にちょっとハッピーな作品も読んでみたいものです。

評価/★★★★☆


少女
(2009年刊/早川書房)

〔概要〕
高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。彼女はかつて親友の自殺を目にしたというのだ。
その告白に魅せられた二人の胸にある思いが浮かぶ――「人が死ぬ瞬間を見たい」。
由紀は病院へボランティアに行き、重病の少年の死を、敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとする。
少女たちの無垢な好奇心から始まった夏が、複雑な因果の果てにむかえた衝撃の結末とは…?

〔感想〕
なかなか面白かったです。前2作同様、背景や環境の描写はほとんどなく、登場人物たちの述懐や独白で進んでいく構成。
この作者は、こういうスタイルが確立しているね。今回は前のほど暗くはないけど、最後にはやっぱり救いようのない展開が…。
伏線がからみあって、なかなかうまい決着だと思いました。
それにしてもこの作者は、単純にハッピーな話って書かないね。
その思想の奥に潜む狂気、救いを求める渇望…そんなものを感じられて、個人的には好きな作家さんです。

評価/★★★★☆


Nのために
(2010年刊/東京創元社)

〔概要〕
「N」と出会う時、悲劇は起こる――。
大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、
同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。
それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。
すべては「N」のために――。

タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。
そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。

〔感想〕
登場人物の一人称で物語が紡がれていく「湊かなえスタイル」は健在。
作品ごとに少しずつ毛色は変わってきてはいるけど、根底は同じです。
表面は飾っているけど、その内面でうごめく醜いもの、誰もが抱える腹黒い葛藤…
筆者が描きたいものは、毎作共通しています。そして僕は、その色がけっこう好きなんだよね(笑)
今作も暗く濁った流れなので、好き嫌いは分かれるかもしれません。
女性だと思ってた人物が実は男性だったり(この錯覚をしている人は多いみたいですね)
人物ごとの異なった視点で、事件の真相が変わってきたり…
ちょっとしたズレみたいなのが、絶妙なテクニックで散りばめられています。
評価を少し下げたのは、「余命半年」となる人物の結末がちょっとアッサリしすぎてたから。
『白夜行』の雪穂にも通じるしたたか者のイメージだったのに、ちょっと残念。

評価/★★★☆☆


夜行観覧車
(2010年刊/双葉社)

〔概要〕
父親が被害者で母親が加害者――。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。
遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。
その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。

〔感想〕
「この作者にしては、わりとアッサリだったかな」というのが正直な感想。
いつもほどドス黒い腹のうちを抱えた人物というのが出てこないので、物足りない感がありますね。
他人から見ると幸せに思える家庭で、ある日突然起きた侠気の事件。
そのスイッチがどこで入ったのか、動機はなんなのか…
そのあたりが最大の謎になっていると思うんですが、最後まで読んでみると
なんかありがちって思ってしまったんですよねぇ。

評価/★★★☆☆


往復書簡
(2010年刊/幻冬社)

〔概要〕
「あれは本当に事故だったのだと、私に納得させてください」。
高校卒業以来十年ぶりに放送部の同級生が集まった地元での結婚式。女子四人のうち一人だけ欠けた千秋は、行方不明だという。
そこには五年前の「事故」が影を落としていた。
真実を知りたい悦子は、式の後日、事故現場にいたというあずみと静香に手紙を送るのだが…。

〔感想〕
3本の独立した物語から成る短編集です。
久しぶりにというか、個人的にはすごく面白かったです。
いつもの「独白」スタイルを手紙という形式に置き換えたのは、今までありそうでなかったアイデアだし、すごく自然。
そして今作では、ミステリー要素が強く、どんでん返しにやられました。
ちょっと予想しない展開でした(読めちゃう人には先が読めちゃうんだろうけど)。
この著者は個人的にけっこう好きなので、いろんなアイデアで作品を作り続けていってほしいと思います。

評価/★★★★☆


花の鎖
(2011年刊/文藝春秋)

〔概要〕
梨花は、悩んでいた。両親を亡くし、祖母もガンで入院。講師をしていた英会話スクールも倒産。お金がない、どうしよう。
美雪は満ち足りていた。伯父のすすめで見合いをした相手が、ずっと憧れていた人だった。幸せな結婚。あの人に尽くしたい。
紗月は、戸惑っていた。水彩画教室の講師をしつつ、和菓子屋のバイトをする毎日。
そんなとき、届いた大学時代の友人からの手紙。忘れていた心の傷が、うずきはじめた…。
3人の女性たちが紡ぐ感動のミステリ。

〔感想〕
一人称の独白形式じゃなくて、普通のストーリーテリングなスタイルでした。この筆者では初めてじゃないかな?
殻を破ろうと新しい試みに取り組んでいるのは好印象だけど、まだしっくりきていない感じかな。
物語の軸になっていくのは、3人の女性と、謎の存在「K」。そして、きんつば屋。
オチは途中でなんとなく読めたかな。ちょっとだけ、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』を思い出しました。
「殺人事件も起きず、登場人物たちの「負」を描くこともない、新しい湊かなえワールドに挑戦した」という意欲作。
この作品を通過点として、新しい世界が広がっていくことを期待します。

評価/★★★☆☆


Story Seller annex
(2014年刊/新潮社)

〔概要〕
大好評アンソロジー「Story Seller」の姉妹編。
6人の超人気作家が豪華競演。オール読みきりで、読み応え抜群の作品を詰め込んだ。
あっと驚かされるミステリ、くすりと笑える話から、思わず涙がこぼれる恋愛小説まで。
物語の力にどっぷり惹き込まれる幸せな読書体験。

  1. 道尾秀介/暗がりの子供
  2. 近藤史恵/トゥラーダ
  3. 有川浩/R-18-二次元規制についてとある出版関係者たちとの雑談
  4. 米澤穂信/万灯
  5. 恩田陸/ジョン・ファウルズを探して
  6. 湊かなえ/約束

 6.湊かなえ/約束
トンガでボランティア教員として働く理恵子は、言葉も文化も全く異なる環境の中で、穏やかに暮らしていた。
だが彼女は、休暇をとって日本からはるばる会いに来た恋人の宗一に、別れの言葉を告げることを決めていたのだった…。

〔感想〕
尺も短いし、湊さんの物語にしては奥があまり深くない気がしました。もっともっと深いものを期待してたんだけど(笑)
なんかむしろ、村山由佳さんの小説みたいな印象でした。
2015年に『絶唱』として単行本化。

評価/★★★☆☆


サファイア
(2012年刊/角川春樹事務所)

〔概要〕
市議会議員の妻となった私は、幸せな日々を送っていた。激務にもかかわらず夫は優しく、子宝にも恵まれ、誰もが羨む結婚生活だった。
だが、人生の落とし穴は突然やってきた。県義会議員選に出馬した夫は、僅差で落選し、失職。そこから何かが狂いはじめた。
あれだけ優しかった夫が豹変し、暴力を振るうようになってしまった…。
絶望の淵にいた私の前に現れた一人の女性弁護士は、忘れるはずもない、私のかけがえのない同級生だった…。

〔感想〕
7つの宝石にゆだねた女性たちの心理を追求したエピソードを連ねた短編集。なかなか面白かったです。
相変わらずのブラックな筆致が楽しめる「真珠」、「ルビー」、「猫目石」や、意外にも爽やかな読後感のあった「ムーンストーン」、
奇想天外な雀女の物語「ダイヤモンド」など、どれもよかったです。
最後の連作となる「サファイア」〜「ガーネット」もよかった。
最後にそれぞれの主人公たちがスピンオフ的に絡んでくると、もっとよかったかも。

評価/★★★★☆


白ゆき姫殺人事件
(2012年刊/集英社)

〔概要〕
誰もが認める美人OLが惨殺された。全身をめった刺しにされ、その後火をつけられた不可解な殺人事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まる。
彼女の名前は城野美姫。同期入社した被害者の三木典子とは対照的に地味で特徴のないOLだ。
フリーライターの赤星雄治は、彼女の行動に疑問を抱き、その足取りを追いかける。
取材を通じてさまざまな噂を語り始める、美姫の同僚・同級生・家族・故郷の人々。噂が噂を呼び、口コミの恐怖は広がっていく。
果たして城野美姫は残忍な魔女なのか?それとも─。

〔感想〕
すごく面白かったです。殺人事件をめぐり、その謎に迫るのは、刑事ではなく薄っぺらい二流フリーライター。
人の話をいいトコどりして鵜呑みにして垂れ流す様子はまさに今のメディアに対する辛らつな皮肉とも思えるし、
本当に怖いものは、遠くにある真実よりも、近くにある噂話だったりすることをほのめかしているのかもしれません。
本の前半は、関係者へのインタビューを主としたメインストーリーで、本の後半は「関連資料」と題したSNSの文面や週刊誌の抜粋記事など。
その間を行ったり来たりしながら真相に迫っていくスタイルが画期的でした。
映画にもなってる作品だけど、この二本立てっぽい雰囲気は映画にするのは難しいだろうなぁ。
事件の真相はどうってことのないところに落ちていくんだけど、それもあえての狙いに思えます。
この筆者の小説はかなり好みが分かれるだろうと思いながら評判を読んでみると、あまりにも評価がバラバラなのに驚きました。
ほんと、合わない人には合わない作家さんですね。
行間からにじみでる、このジメっとした感じが僕は好きだけど、万人に薦められる作家さんではないのかもしれませんね。

評価/★★★★☆


望郷
(2013年刊/文藝春秋)

〔概要〕
都会で家庭を持った洋平は、瀬戸内海に浮かぶ白綱島出身。
突然届いた同級生からの手紙が、小六の時に失踪した父の記憶を呼び起こす。
港、山盛りのアジ、突然現れたダミ声のおっさん、毎夜母とともに、父を探して歩いた道。そして突然の別離。
日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作「海の星」ほか傑作全六編。
島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む複雑な心模様が生み出すさまざまな事件を紡ぐ。

〔感想〕
なかなか面白かったです。瀬戸内海の白綱島を舞台に展開される様々な人間模様を紡いだ短編集です。
白綱島のモデルは、筆者自身の出身地でもある因島のようです。
短編なのに、しっかり事件が起きてサクッと解決するのがちょっとバタバタした感じも受けました。
「海の星」もいいけど、「夢の国」とかもけっこう好きです。
彼女の作風はよく「イヤミス(読み終わった後にイヤな気持ちになるミステリー)」と言われています。
たしかに本作でも、陰湿なイジメだったり、心理の裏にある残忍性が描かれていたりするけど、
それは決して彼女自身がそうだったりするわけではないと思うし、むしろそういう、
誰にでも潜んでいる(個人差はあるだろうけど)深層心理に冷静にフォーカスを当てて、
言葉として描き出せる筆致力は類まれなものだと思います。
誰もが面白いと思う本もいいけど、読み手を選ぶ本というのもあっていいと思うし。
そういうジャンルの中では、彼女の存在感は際立っていると思います。個人的には、すごく好きな作家さんです。

評価/★★★☆☆


母性
(2012年刊/新潮社)

〔概要〕
母と娘。二種類の女性。美しい家。暗闇の中で求めていた、無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。
私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました―。
そしてその日、起こったこと―。
「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」著者入魂の、書き下ろし長編。

〔感想〕
素直な感想としては、ボチボチでした。
いつものテイストとはちょっと違っていて、今回のテーマは母と娘のそれぞれの心模様のすれ違い。
「私はこう思っているのに、相手にはどうして伝わらないんだろう」というすれ違いを、お互いにしてしまっているという物語。
女性ならではの感性には簡単に理解できない部分が、やはりたくさんありますね。
ちょっとだけでも言葉を交わせば、わかりあえるはずなのに…とじれったく思ってしまいました。

評価/★★★☆☆


境遇
(2011年刊/双葉社)

〔概要〕
デビュー作の絵本『あおぞらリボン』がベストセラーとなった陽子と、新聞記者の晴美は、共に幼いころ親に捨てられて施設で育った過去を持つ親友同士。
ある日、「真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状とともに、陽子の息子が誘拐された。果たして「真実」とは何か…。
ABC創立60周年記念スペシャルドラマの書き下ろし原作。

〔感想〕
ドラマを先に観ていたのでどうしても先が読めてしまうのは仕方ないとしても、それを差し引いてもちょっとイマイチだったかな。
地方議員とはいえ政治家の幼い息子が誘拐されたというのに、展開されるのはすごく小さな世界。
普通、最初の時点でもっと大事にならないかなぁ。
ありがちな展開で素人が謎解きをしていくんだけど、その展開がまた迷いのない一直線なので全く盛り上がらない。
犯人の動機が弱いから、最後のオチも締まりがないし。最後のどんでん返しもとってつけた感は否めない。
僕にとってこの作品は、ドラマ撮影時の記憶が強いかな。
ロケを行っていたのが当時住んでいた松本の自宅のすぐ近くで、シゴトの帰りにロケに遭遇して、松雪泰子さんをチラ見しました。
後でドラマの映像を観た時にはもう松本を出ていたので、とても懐かしかったです。

評価/★★☆☆☆


高校入試
(2013年刊/角川書店)

〔概要〕
県内有数の進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」と書かれた貼り紙を見つける。
そして迎えた入試当日。最終科目の英語の時間に、持ち込み禁止だったはずの携帯電話が教室に鳴り響く。
さらに、ネットの掲示板には同校の教師しか知り得ない情報が次々と書き込まれていく…。
誰が何の目的で入試を邪魔しようとしているのか?振り回される学校側と、思惑を抱えた受験生たち。
謎に包まれた長い長い一日が始まった…。

〔感想〕
正直、イマイチでした。『告白』など高校を舞台にした物語は他にもあるけど、今回のテーマは高校入試。
裏もあるし、様々な思惑もあるし、不透明な事情もたくさんある。
だけど、そのことについて心を動かされるほど、僕はもう子どもでもない。
10代の頃に読んだら、もっとリアリティを感じるのかもしれないけどね。
先にドラマがあって(それを文字に起こした「シナリオ」版も先行出版されている)、小説が後出しなので、いつにもまして登場人物が多い。
テレビドラマほど視覚的な導入ができないので、必然的に教師や生徒たちの味付けも弱くなる。
そのことが全体的に物語を薄っぺらくしてしまっているのかもしれないね。

評価/★★☆☆☆


物語のおわり
(2014年刊/朝日出版社)

物語のおわり〔概要〕
妊娠三ヶ月で癌が発覚した智子、プロカメラマンになる夢をあきらめようとする拓真、志望した会社に内定が
決まったが自信の持てない綾子、娘のアメリカ行きを反対する木水、仕事一筋に証券会社で働いてきたあかね…。
人生の岐路に立ったとき、彼らは北海道へひとり旅をする。そんな旅の途上で手渡された紙の束、
それは「空の彼方」という結末の書かれていない小説だった。そして、本当の結末とは…。

<目次>
空の彼方/過去へ未来へ/花咲く丘/ワインディング・ロード/時を超えて
湖上の花火/街の灯り/旅路の果て

〔感想〕
すごく面白くて、一気に読み終えてしまいました。デビュー作『告白』以降の「嫌ミス路線」を抜け出して、湊かなえさん、まさに新境地ですね。
今作は「空の彼方」と題されたひとつの手記を通して、様々な登場人物たちの「今」が癒されていくというハートウォーミングストーリーです。
彼らは様々な理由で北海道を旅しているんですが、北の大地はそれだけでは助けにならなくて。
そこで出会う人々や、景色、出来事を通して自分自身を見つめていくことで、自ら答えを導き出していくんです。
その過程がとても優しくて、「こんな旅をしたい」と思わせてくれる紀行にもなっています。
人の心の内情を描く手腕には長けている筆者ですが、そこに旅情が足されるとこんなにも豊かな作品になるんだなというのが最大の発見でした。
これからもこういう作品を期待したいです。

評価/★★★★★


山女日記
(2014年刊/幻冬舎)

〔概要〕
このまま結婚していいのだろうか。その答えを出すため、「妙高山」で初めての登山をする百貨店勤めの律子。
一緒に登る同僚の由美は仲人である部長と不倫中だ。由美の言動が何もかも気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまう。
医者の妻である姉から「利尻山」に誘われた希美。
翻訳家の仕事がうまくいかず、親の脛をかじる希美は、雨の登山中、ずっと姉から見下されているという思いが拭えない。
「トンガリロ」トレッキングツアーに参加した帽子デザイナーの柚月。
前にきたときは、吉田くんとの自由旅行だった。彼と結婚するつもりだったのに、どうして、今、私は一人なんだろうか……。
真面目に、正直に、懸命に生きてきた。私の人生はこんなはずではなかったのに……。
誰にも言えない「思い」を抱え、一歩一歩、山を登る女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。
女性の心理を丁寧に描き込み、共感と感動を呼ぶ連作長篇。

〔感想〕
すごく面白かったです。山登りが好きな人とか、山を登ってみたいと思う人には、きっと共感してもらえるんじゃないかな。
連作小説で、主人公(全員女性です)はそれぞれの理由で山に登る。
そしてそこで出会う人たちや、出来事で自分自身を見つめ、何かを手に入れ、時には何かを失っていく…。
登山という「非日常空間」で体験できる様々な情感を、淡く切なく、見事に描いていると思います。
この作品の批評とかを見ると、「人が死ななくて驚いた」という人があまりにも多いので、それに逆に驚きました(笑)
『物語のおわり』もそうだけど、「イヤミス」だけじゃない新しい境地をどんどん拓いていっていますね。
『告白』で貼られたレッテルはあまりにも大きく重たいものだけど、確実にそれを払拭する作品を作っている筆者だけに、これからも期待です。

評価/★★★★☆


豆の上で眠る
(2014年刊/新潮社)

〔概要〕
行方不明になった姉。真偽の境界線から、逃れられない妹――。
あなたの「価値観」を激しく揺さぶる、究極の謎。私だけが、間違っているの?
13年前に起こった姉の失踪事件。大学生になった今でも、妹の心には「違和感」が残り続けていた。
押さえつけても亀裂から溢れ出てくる記憶。そして、訊ねられない問い――。
戻ってきてくれて、とてもうれしい。だけど――ねえ、お姉ちゃん。あなたは本当に、本物の、万佑子ちゃんですか?

〔感想〕
うーん。後に出版された『山女日記』『物語のおわり』を先に読んでいて、だいぶテイストの違う湊さんを読んでいただけに
久しぶりにここに帰ってきたな、という感じ。いわゆる「イヤミス(イヤな後味のミステリー)」の湊さんですね。
ということは、この作品までが「イヤミス」の湊さんの“第一期”と言えるのかもしれないですね。
物語の着想は、「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」という、アンデルセンの童話から。
「本物のお姫様は誰?」というところから物語を広げるテクニックはすごいと思うけど
今回の作品に関しては、ちょっといまいち。なんと言っても、最大の肝となる誘拐の真相が、やっぱりありえない。
最後に真相が明かされる場面も、ちょっと慌しく感じたし、何も知らされなかった妹が可哀想だなぁという印象しか残りませんでした。

評価/★★★☆☆


絶唱
(2015年刊/新潮社)

〔概要〕
心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために―。
「死」に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。
そこで生まれたそれぞれの「希望」のかたちとは? “喪失”から、物語は生まれる―。

 <目次>楽園/約束/太陽/絶唱

〔感想〕
1995年1月17日、阪神淡路大震災で大切な人を失った女性たちが主人公です。
様々な喪失感を抱いた彼女たちが、南海のトンガを訪れ、そこで得た希望の形。
母親が、自分の過失のために子どもを入れ替えるとか…第1章「楽園」は、ちょっと「ありえないだろ〜」と思ってしまった。
設定とか物語自体は、先に刊行された『豆の上で眠る』にも通じるところがありますね。
第2章「約束」は、どこかで読んだ気がする…と思ったら、『Story Seller annex』に収められていた短編でした。
こうやってつなげると、意味がわかってきますね。
シングルマザーの杏子の側からの視点を描いた第3章「太陽」は、設定がわかりやすくて一番感情移入がしやすかったかな。
最終章「絶唱」は、罪悪感を深く掘り下げた物語。筆者の本当の体験談なのかどうかが最大のミステリーだけど
もし事実だとしたら壮絶すぎるよね…。『告白』から続く筆者独自の諦観みたいなものの真相がここにある気がします。
ただ、最後の絶唱の場面はちょっとドラマ過ぎる演出だけど…事実は小説より奇なり、かな?
震災からちょうど20年目の2015年1月17日に出版されたあたりに、筆者の覚悟のようなものが感じられました。

評価/★★★☆☆


リバース
(2015年刊/講談社)

〔概要〕
深瀬和久は、事務機会社に勤める平凡なサラリーマン。趣味と呼べるものは、こだわりのコーヒーを飲むこと。
そんな彼だが、行きつけのコーヒー豆専門店で出会った越智美穂子という女性と、少しずつ愛を育んでいた。
そんなある日、美穂子のもとに『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が送りつけられてくる。
深瀬は長く自分の心に閉じ込めていた、ある出来事を美穂子に話し始めるのだが…。

〔感想〕
なかなか面白かったです。湊さんの作品では珍しく男性が主人公で、平凡だけど、少し卑屈なところもある内気な性格。
その周りの友人たちは皆、明るくて自信に満ち溢れた者たちばかり。そんな羨望を感じなくて済む、「唯一の親友」広沢。
シンプルそうに思えるこの人間関係だが、実は色々な思いが交錯している、というところが湊さんならではのややこしさ。
そこに常にキーとしてある小道具が、コーヒー。このコーヒーが大きな伏線になっているとは思わなかったなぁ。
最後の一行には、とても驚きました。意外にアクティブすぎる「告発者」の行動力が少し行き過ぎに感じるのと
途中から謎解きが探偵モノっぽくなっていくのが、ちょっと非現実的かなと思えたので、★は少し控えめ。

評価/★★★☆☆


ユートピア
(2015年刊/集英社)

〔概要〕
海辺の田舎町、鼻崎町。駅前の廃れかけた商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子。
夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。
生きてきた環境も、考え方や立場も全く違う3人の女性たちが、ひょんなきっかけで出会う。
菜々子の娘で、足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、彼女たちがボランティア基金「クララの翼」を設立。
しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わすのだが…。

〔感想〕
正直、ボチボチという感想です。主人公でもある3人の女性たちは、それぞれに鬱憤を抱えていて、言葉と建前を
場面に応じて使い分けているけど、根底ではなかなか人を信じることもできず、心を開ける相手もいない。
そうだと思った相手とは、些細な言葉尻や、価値観の相違で擦れ違ってしまう。
そんなドロドロとした人間模様がどこに落ち着くのかと思えば、やや唐突に思える誘拐事件と、終盤の急展開。
最後の日記はこの筆者らしい闇を感じられたけど、なんとなく想定の範囲内かな。
『白ゆき姫殺人事件』なんかもそうだけど、最近の作品は、主人公と、対面する相手だけじゃなくて、ネットだったりSNSだったり、
外部の他社の声をうまく道具として使っていると感じます。ネット上の些細な書き込みでも、ある特定の思い込みをもって読めば
自分を非難する言葉にも思えるし、不特定多数の無言の声は、それだけで大きなプレッシャーとなって主人公を圧迫します。
そういう心理効果が、今時の作家だなぁと思いますね。

評価/★★★☆☆


ブロードキャスト
(2018年刊/KADOKAWA)

〔概要〕
町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の大会、わずかの差で出場を逃してしまう。
その後、陸上の名門校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、
同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することに。
陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の咲楽、先輩女子たちの熱意に触れながら、その面白さに目覚めていく。
目標はラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストに出場することだったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。
果たして圭祐は、新たな「夢」を見つけられるか――。
湊かなえが初めて挑む、学園青春小説。
陸上の夢が潰えた僕は、まさかの放送部へ。そこに居場所はあるか。
夢と友情、嫉妬と後悔。大人への反発。湊かなえだからこそ書けた、心ふるわす新青春小説。

〔感想〕
すごく面白かったです。まったく先入観を持たずに読んだので、こんなに爽やかな物語だとは思わずに。
途中で「あれ?瀬尾まいこさんの作品だったかな?」と思ったりもしました(笑)
湊かなえさんの作品といえば、「イヤミス」と言われる登場人物たちの黒く深い深層心理描写が特徴だけど、
今作はそういうものを封印して書いています。
ところどころ、主人公の圭祐から見た懐疑心みたいなものが覗く場面はあるけど全体を通して、爽やかな物語でした。
高校の部活を舞台に描いているんだけど、運動部ではなく、文化部、それも放送部というややもすれば
マイナーな部門を選んだのも面白いかも。
作中でクラスメイトが「オタクっぽくて気持ちわるい」と放送部を揶揄する場面があるんだけど、
そういう風潮って、やっぱりどこかで根強くあるのかもしれないよね。
僕もオタクっぽいところがあるから、どちらの意見もわかる。
だけどそこで圭祐が立ち向かえる勇気を持てたこと、SNSを通じたイジメなどにも啓発の鐘を鳴らすということは
読了後に爽やかな後味を残してくれたと思います。
ほんと、湊かなえさんの新境地なんじゃないかなぁ。こういう路線でもしっかり世界を描けるのはさすがです。

評価/★★★★☆


未来
(2018年刊/双葉社)

〔概要〕
父を亡くしたばかりの10歳の少女・章子のもとに、30歳の章子が書いたという“未来からの手紙”が届く。
その手紙に励まされた10歳の章子は、大人の章子に向けての返事という形で、日記を書き始める。
様々な辛い出来事があっても、未来からの手紙に込められた希望を信じて頑張る章子だったが、
彼女を待っている現実は想像をはるかに超えた過酷なものだった…。

〔感想〕
正直、ボチボチという感想。すごく分厚いけど、内容はそこまで濃くはないかな。
「イヤミス」というフレーズが常に付きまとう作家さんだけど、その言葉に振り回されているような作品でした。
DV、児童への性的虐待、親殺し、自殺など…ありきたりといったら悪いけど、考えうる悪い出来事を
これでもかっと詰め込んでいた。ちょっと、とってつけたようにも感じました。
最後の結末も、到底希望に結びつくものではなかったし…。
後半は主人公が異なり、時系列をさかのぼる「エピソード」が続くけど、主人公がちょっと意外な「エピソード3」が
なかなか面白かったです。これですべてがスッキリした気がしました。
「エピソード2」とあわせて、伏線の回収がスッキリするので、そこに関してだけはもう一回読み返したくなりました。

評価/★★★☆☆


ポイズンドーター・ホーリーマザー
(2016年刊/光文社)

〔概要〕
女優の弓香の元に、かつての同級生・理穂から届いた故郷での同窓会の誘い。
欠席を表明したのは、今も変わらず抑圧的な母親に会いたくなかったからだ。
だが、理穂とメールで連絡を取るうちに思いがけぬ旧友の訃報を聞きくのだが…。
母と娘、姉と妹、友だち、男と女。善意と正しさの掛け違いが、眼前の光景を鮮やかに反転させる。
名手のエッセンスが全編に満ちた連作短編集。

〔感想〕
この作家さんの得意分野・毒のあるサスペンスでの短編集です。
どの物語も、「見る視点によって物事の見え方は全く異なる」というテーマで描かれています。
「あの人のためを思ってこうしているのに」という事が、相手からするとすごく迷惑だったり…
そういうことって、多かれ少なかれありますよね。そこに一滴だけ毒のエッセンスを足すだけで
こんなにもドロドロとした愛憎劇に仕立てられるのは、さすがです。

評価/★★★☆☆


落日
(2019年刊/角川春樹事務所)

〔概要〕
新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。
「笹塚町一家殺害事件」。引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。
15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。
笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。
“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。
絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。

〔感想〕
正直、ボチボチぐらいの感じ。新進映画監督の香と、脚本家見習いの千尋の二人を軸に物語は描かれるんだけど
二人のキャラがちょっと弱いので、なんかボンヤリした感じでした。
章立てごとに人物の視点が変わるんだけど、そこを故意に曖昧に描くことで、読み手をミスリードするというトリックは
この作者さんのお手の物だけど、本作では中盤がやや中だるみすることもあって、そこでちょっと失速気味かな。
そこらへんでウロウロしているうちに、他の登場人物があれこれ絡んでくるので、描きたい方向性が中途半端に
散らかってしまった感は否めないかな。物語の種明かしの最終章はすごくよかったけど。

評価/★★★☆☆


カケラ
(2020年刊/集英社)

〔概要〕
美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。
カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。
八重子には高校生の娘がいて、その娘はドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。
母の作るドーナツが大好物で、性格の明るい人気者だったという少女に何が起きたのか―。
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる自意識や、人の幸せのありかを見つめる、心理ミステリ長編。

〔感想〕
序盤はなかなか物語に入り込めず、読み進めるのに苦労しました。
それは僕が男性だからなのか、美容とか整形とかにあまり関心がないからなのか…。
全体的に、物語は整形外科医の久乃が事件の関係者から話を聞いていくという流れになっているのですが
会う人会う人、誰もがみんな愚痴っぽくて、「女のイヤなところ」の連続で、読んでいてしんどかったというのもあるかな。
事件の概要がおぼろげにわかりはじめた第3章のあたりから少しずつ面白くなりましたが…
最後の結末もちょっとあっけなくて拍子抜け。
やっぱり、100kg越えるまでドーナツ食べ続けるというのはいかがなものか。ちょっと極端すぎるかな。

評価/★★☆☆☆


残照の頂 続・山女日記
(2021年刊/幻冬舎)

〔概要〕
通過したつらい日々は、つらかったと認めればいい。たいへんだったと口に出せばいい。
そこを乗り越えた自分を素直にねぎらえばいい。そこから、次の目的地を探せばいい。
日々の思いを噛み締めながら、一歩一歩、山を登る女たち。
頂から見える景色は、過去の自分を肯定し、未来へ導いてくれる。
山に魅せられた女性たちが織り成す、人生のドラマ。

〔感想〕
NHKでドラマ化(観てないけど)もされた登山ドラマの第2弾です。
登山を舞台に女性たちのドラマを描くというテーマは同じだけど、前作『山女日記』とは登場人物・物語とも
交わっているところはないので、本書単独でも楽しめます。
2時間モノの刑事ドラマのラストが崖っぷちだったりすると「そこで追い詰めなくてもいいんじゃない」と思ってしまうけど
その情景の舞台がどこだったか、というのは人生では意外と大事なことなんじゃないかなと思うんですよね。
その場所や、空気感、前後で食べたもの、聞こえた音楽、それらが人生の思い出を形作っていく。
そんな「人生の節目」が登山というのは、たまたまだったとしても、そう運命づけられていたのかもしれない。
というより、「山に登る」という「ある種の覚悟」が必要な一歩を踏み出す強さが
登場人物たちの心を開く後押しをするし、自分の気持ちに対して、相手に対して、素直になれる力をくれるんだろうね。
前作よりもそれぞれの物語が少し長くなってミステリー要素が増してるところもあるけど
「イヤミス」要素はないので、湊さんの作風が苦手な方にもオススメです。

評価/★★★★☆


ドキュメント
(2021年刊/KADOKAWA)

〔概要〕
中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故で足を負傷し高校では放送部に入ることに。
圭祐たちは放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。
3年生の引退後、白井新部長ら3人の2年生とともに、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材として
ドローンを駆使して駅伝の全国大会に挑む陸上部を撮影していく。
ところが映像の中に、映ってはならない不祥事の場面が映っているのを発見してしまうのだった…。

〔感想〕
読み終えてから気づいたけど、この作品は『ブロードキャスト』の続編なんですね。
あれは面白かった記憶があるけど、だいぶ前に読んだので内容を完全に忘れていました。
正直イマイチでした。なんだろうなぁ。とにかくなんか、パッとしない。
一番の原因は、滑りの悪い文章。なんか脚本のように、必要以上にその場面でクドい説明をしていたり。
あまり本筋とは関係のない描写が、物語の勢いを削いでいるんじゃないかなぁ。
人物が着ている服のロゴとか必要ないと思うし、圭祐から観た感想文みたいな視点はいらないんじゃないかなぁ。

評価/★★☆☆☆


人間標本
(2023年刊/KADOKAWA)

〔概要〕
蝶が恋しい。蝶のことだけを考えながら生きていきたい。蝶の目に映る世界を欲した私は、ある日天啓を受ける。
あの美しい少年たちは蝶なのだ。その輝きは標本になっても色あせることはない。
五体目の標本が完成した時には大きな達成感を得たが、再び飢餓感が膨れ上がる。
今こそ最高傑作を完成させるべきだ。果たしてそれは誰の標本か。
――幼い時からその成長を目に焼き付けてきた息子の姿もまた、蝶として私の目に映ったのだった。
イヤミスの女王、さらなる覚醒。15周年記念書下ろし作品。

〔感想〕
正直「気持ち悪い」というのが第一印象でした。かつて「イヤミス」と言われたのともちょっと違う、生理的に受け付けがたいタイプの嫌さです。
「芸術」は倫理観とか道徳心みたいなものを超越するのか。それがこの作品のテーマかな。
実は僕も、かつて似たようなテーマで小説を書こうと思ったことがあります。
戦争の時代、哀しい男女の別れを描こう思ったものでした。愛する人を、愛しすぎるがゆえに美しいまま手にかけてしまう将校の話。
結局文章力の乏しさ、飽きっぽさゆえに完結はしなかったんだけど、本作のテーマも根源的には理解してしまえる自分もいて。
そういう仄暗さみたいなものに光をあてられたようで、どことなく居心地の悪さも感じてしまう。そんな作品でした。
中盤までの「手記」がちょっと冗長すぎる感じがするし、後半の怒涛の展開は逆に拙速に感じてしまって。
なんとなく全体的にバランスが悪いような、そんな物語でした。

評価/★★☆☆☆


C線上のアリア
(2025年刊/朝日新聞出版)

〔概要〕
中学生の時に両親を事故でなくした美佐は、叔母に引き取られ、高校時代を山間部の田舎町で過ごす。
それから約30年、叔母に認知症の症状が見られると役場から連絡があり、懐かしい故郷を訪れる。
かつて、美しく丁寧に暮らしていた家はごみ屋敷と化していた。
片付けを進めていくと、当時の恋人から借りた本を見つける。
あったかもしれない未来をのぞき見するような思いで、本を返しに行った美佐は、衝撃的な場面を目撃する。

  1. チェーン(chain)
  2. コード(code)
  3. カバー(cover)
  4. キャビン(cabin)
  5. チェンジ(change)
  6. クライム(crime)
  7. ケア(care)

〔感想〕
嫁姑問題、ゴミ屋敷、介護、ノルウェイの森、緑と赤、下巻から本を読む男、上巻しか読まない男、金庫、罪…。
一見バラバラに見えるこれらのフレーズがバランスよく詰め込まれたミルフィーユのような物語でした。
主人公は美沙だけど、垣間見る情景は50年前のみどり屋敷を舞台とした弥生と菊枝のすれ違いの邂逅で。
美沙と同じく、興味本位で日記を覗き見る中で解き明かされていく謎が面白く、一気に読んでしまいました。
いろいろと考えさせられる物語でした。
タイトルの意味が最初はわからなかったけど、元ネタは当然ながらバッハの「G線上のアリア」。
各章がすべて「C」で始まっているんだね。
CARE(介護)とCHAIN(絆という鎖)は同一線上にあれど、同一のCODE(体系)ではない。
この一文に尽きるんだろうね。

評価/★★★☆☆


1 告白 2008/8 双葉社 ★★★★☆
2 少女 2009/1 早川書房 ★★★★☆
3 贖罪 2009/6 東京創元社 ★★★★☆
4 Nのために 2010/1 東京創元社 ★★★☆☆
5 夜行観覧車 2010/6 双葉社 ★★★☆☆
6 往復書簡 2010/9 幻冬舎 ★★★★☆
7 花の鎖 2011/3 文藝春秋 ★★★☆☆
8 境遇 2011/10 双葉社 ★★☆☆☆
9 サファイア 2012/4 角川春樹事務所 ★★★★☆
10 白ゆき姫殺人事件 2012/7 集英社 ★★★★☆
11 母性 2012/10 新潮社 ★★★☆☆
12 望郷 2013/1 文藝春秋 ★★★☆☆
13 高校入試 2013/6 角川書店 ★★☆☆☆
Story Seller annex/約束 2014/2 新潮社 ★★★☆☆
14 豆の上で眠る 2014/3 新潮社 ★★★☆☆
15 山女日記 2014/7 幻冬舎 ★★★★☆
16 物語のおわり 2014/10 朝日出版社 ★★★★★
17 絶唱 2015/1 新潮社 ★★★☆☆
18 リバース 2015/5 講談社 ★★★☆☆
19 ユートピア 2015/11 集英社 ★★★☆☆
20 ポイズンドーター・ホーリーマザー 2016/5 光文社 ★★★☆☆
21 山猫珈琲(上) 2016/12 双葉社
22 山猫珈琲(下) 2017/1 双葉社
23 未来 2018/5 双葉社 ★★★☆☆
24 ブロードキャスト 2018/8 KADOKAWA ★★★★☆
25 落日 2019/9 角川春樹事務所 ★★★☆☆
26 カケラ 2020/5 集英社 ★★☆☆☆
27 ドキュメント 2021/3 KADOKAWA ★★☆☆☆
28 残照の頂 続・山女日記 2021/11 幻冬舎 ★★★★☆
29 湊かなえのことば結び 2022/9 角川春樹事務所
30 人間標本 2023/12 KADOKAWA ★★☆☆☆
31 C線上のアリア 2025/02 朝日新聞出版 ★★★☆☆
32 暁星 2025/11 双葉社