
| 瀬尾 まいこ | (1974.1.16−) |
| せお・まいこ、本名・瀬尾麻衣子。 1974(昭和49)年、大阪府生まれ。大谷女子大学国文学科卒。 中学校国語講師を9年勤め、2005年に教員採用試験に合格。 2011年に退職するまで、京都府の中学校で国語教諭として勤務していた。 2002年、デビュー作『卵の緒』で第7回坊ちゃん文学大賞受賞。 2005年、『幸福な食卓』で第26回吉川英治文学新人賞受賞。 2008年、『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞受賞。 2019年、『そして、バトンは渡された』で第16回本屋大賞を受賞。 |
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*読んだ著書*/著作リスト
卵の緒
(2002年刊/マガジンハウス)
〔あらすじ〕
捨て子だと思っている小学校4年生の育生、妙ちきりんな母親、そのとぼけたボーイフレンド、不登校の同級生…。
血の繋がらない親子を軸に、「家族」を軽やかなタッチで描く。
第7回坊っちゃん文学大賞受賞作。書き下ろし中編小説「7’sblood」も収録。
〔感想〕
テーマ的には昼のメロドラマで扱うようなドロドロしたものなんだけど、主人公育生の快活さと、その母親がいい味を出しているおかげで
とても爽やかな作品に仕上がっています。「にんじんフェア」の件なんかがとくに面白かったです。
同時収録されている書き下ろしは、設定こそ違えど、『卵の緒』の続編のようなお話。
高校生の七子と、亡き父親が愛人に生ませた小学生の弟・七生との関係を描いたもの。
突然始まった2人だけの共同生活。突然生じた姉弟関係への戸惑い。
その過程で、登場人物たちの心の動きが丁寧に表現されています。
これもなかなか面白かったです。結末はちょっと切なかったけど、後味は爽やかでした。
評価/★★★★☆
図書館の神様
(2003年刊/マガジンハウス)
〔あらすじ〕
早川清(きよ)は、大学を卒業したばかりで、高校講師になった22歳の女性。
中学、高校とバレーボールに青春をかけ、将来も選手として生きていくものと思っていた矢先、ある事件がきっかけでバレーボールを失うこととなり、
人生の目標を見失ってしまう。「選手以外にもバレーボールに携わることはできるんじゃないか」との恋人のアドバイスでコーチになろうと決意、
高校の講師になるが、バレーとは関係のない文芸部の顧問になってしまう。
文学に全く興味のない清はやる気がなかったが、垣内というただ一人の部員に影響されて次第に今までは知らなかった文学の魅力を発見していく…。
〔感想〕
文学や本に興味のない中高生が、読書に親しむきっかけにふさわしい爽やかな作品。
評価/★★★★☆
天国はまだ遠く
(2004年刊/新潮社)
〔あらすじ〕
自殺志願の千鶴が辿り着いたのは、日本海にほど近い山奥の民宿。
そこで思いがけずたくさんの素敵なものに出逢い、次第に千鶴の心は癒されていく…。
〔感想〕
とても素敵な、ロードムービー的な映像が頭に浮かんでくる作品。
評価/★★★★☆
幸福な食卓
(2004年刊/講談社)
〔あらすじ〕
中学生の佐和子の家族は、ちょっと変わっている。
突然、父親を辞めると言い出す父、家出中なのに料理を持ち寄りにくる母、元天才児だが、晴耕雨読の日々に生きる兄・直。
彼らはいつも一緒に朝食の食卓を囲んでいたが、様々な出来事を経て、彼らの暮らしは少しずつ変化していく…。
〔感想〕
4連の短編で成り立つ作品。中学生から高校生へと育つ佐和子たちを描いています。
最後は衝撃の結末…他の結末を期待していただけに、ちょっと悲しかった。
評価/★★★☆☆
優しい音楽
(2005年刊/双葉社)
〔あらすじ〕
受けとめきれない現実。止まってしまった時間―。だけど少しだけ、がんばればいい。きっとまた、スタートできる。
家族、恋人たちの温かなつながりが心にまっすぐ届いて、じんとしみわたる。軽やかな希望に満ちた3編を収録。
〔感想〕
3編収録されている短編は、どれもファンタジー調。
登場人物の女性の思い込みで周りの人たちが振り回されるんだけど、やがてそれが柔らかく受け止められていく。そんな物語です。
だけどどれも、いまいちパンチに欠けるというか…。
評価/★★★☆☆
温室デイズ
(2006年刊/角川書店)
〔概要〕
トイレでタバコが発見される。遅刻の人数が増える。これらの始まりの合図に教師たちはまだ気づかない。
私たちの学校が崩壊しつつあることを。日本の平和ボケは、学校の場でも存分に発揮されている。
生温い方法では、もう追いつかなくなってしまうのだ。この温室のどこかに、出口はあるのだろうか…。
〔感想〕
現在盛んに社会問題として取り上げられている中学生のイジメをとり上げています。
いじめられっ子と、登校拒否生徒というふたつの視点から描かれる世界は、すごくリアルに現状を感じられるし、
現役の教師でもある筆者が、日本の教育現場の現状を憂えている様子がよくわかります。
今こそこういう本をたくさんの人に読んでほしいなぁと思いますね。
評価/★★★☆☆
強運の持ち主
(2006年刊/文藝春秋)
〔概要〕
元OLの売れっ子占い師、ルイーズ吉田は大忙し!直観だろうと占い本通りだろうとかまわない。
でも、どんなつまらない相談事でも、人生にかかわる一大事でも、同じように真剣に占わないといけない。
当たる当たらないは問題じゃなく、相手が納得する答えを出さないといけない。
そんなある日、「物事の終末が見える」という大学生の武田君が現れる。ルイーズ自身にもおわりの兆候が見えると言い出して…。
表題作ほか3編を収録した連作短編集。
〔感想〕
とても面白かったです。短編だけど連作なので、全体でひとつの物語になっており、とても楽しく読みやすい。
一人でやってきた小学生の意外な悩みに始まり、女子高生、大学生、そして自分の恋人へと、占いの対象は変わっていくんだけど
それと同時に主人公が成長していくのがわかるんだよね。とても微笑ましくて、とても暖かい気分になれる作品です。
評価/★★★★☆
見えない誰かと
(2006年刊/文芸春秋)
〔概要〕
私のそのときの毎日を楽しくしてくれている人は、確実にいる。誰かとつながる。それは幸せなことだ。
中学校教師である著者による初エッセイ集。モバイル連載に加筆訂正し、単行本化。
〔感想〕
小説かと思って読んだら、エッセイだったんですね。3ページぐらいの短い短編エッセイ集。
著者が教師(講師)をしていて出会った素敵な人たちについて書かれているんだけど
こんなにたくさんの素敵な人と出会えるってすごいことだなぁと思う。
もちろんその反面、本には全く書かれていないイヤな人とか事もいっぱいあるんだろうけど。
小説の文面からも感じられる、ほんわかとした和やかさ、素朴な感じの人柄がよく伝わってきます。
評価/★★★☆☆
戸村飯店青春100連発
(2008年刊/理論社)
〔概要〕
大阪の下町にある中華料理店・戸村飯店。この店の息子たちは、性格も外見も正反対で仲が悪い。
高3の長男・ヘイスケは、昔から要領が良く、頭もいいイケメン。
しかし地元の空気が苦手で、高校卒業後は東京の専門学校に通う準備をしていた。
一方、高2の次男・コウスケは勉強が苦手。単純でやや短気だが、誰からも愛される明朗快活な野球部員。
近所に住む同級生・岡野に思いを寄せながら、卒業後は店を継ぐつもりでいたのだが…。
切っても切れないくされ縁?さわやか爆笑コメディー。
〔感想〕
タイトルはヘンだけど、すごく面白かった。瀬尾さんの作品の中でも一番面白かったし、すごく好き。
個人的には代表作として挙げたいほど。
誰でも学生時代に抱いていたであろう悩みや葛藤、将来への希望なんかがとても爽やかに描かれています。
章ごとに兄と弟に視点が変わる構成も面白いし、二人がそれぞれに愛すべきキャラクターなのが楽しい。
青春ドラマとしても楽しいし、最後まで一気に読んでしまいました。「それはロックか?」という場面が一番爆笑のツボでした。
評価/★★★★★
ありがとう、さようなら
(2007年刊/メディアファクトリー)
〔概要〕
せんせいの毎日はありがとうに満ちている、そして訪れる、さようなら。
辞めてやるって思うことも時々あるけれど、せんせいの毎日にはそれ以上の感動がいっぱい。
小説家・瀬尾まいこがデビュー直後から3年半にわたって書き綴ったエッセイ集。
〔感想〕
『見えない誰かと』と同じく、エッセイ集です。前作は教師(講師)をする中で出会った人々のこと。
今作は、生徒(中学生)のことがテーマです。「こんな生徒がいたよ」という話がいっぱい。
中学校を卒業してから随分経つので、自分自身の当時を思い返すことはかなり難しいけど
「こんな生活を送っていたかもしれない」と思える、温かいエピソードが満載。
評価/★★★☆☆
僕の明日を照らして
(2010年刊/筑摩書房)
〔概要〕
母親の再婚で名字が上村から神田に変わり、中学2年生になった隼太。今まで1人きりだった夜は、優ちゃんといっしょの夜に変わった。
優しくてかっこいい優ちゃんを隼太は大好きだったが、優ちゃんはときどきキレて隼太を殴るのだった。
でも、絶対に優ちゃんを失いたくない。隼太と優ちゃんの闘いが始まる。
〔感想〕
今までにない内容だけど、なかなか面白かったです。
義理の親から虐待を受ける子どもは、現代の日本ではすごく多いと聞きます。
そんな社会問題を、筆者独特の優しいタッチが描いていて、個人的にはスッと受け容れられる作品でした。
ワケもなくキレる父親と、それを絶える息子。そのお互いの関係を、少しずつよくしていこうという努力。
最後の結末はちょっと切なかったけど、中学生時代特有のやりきれなさ、葛藤みたいなのがよく描けていたと思います。
さすがに普段接しているだけある。
評価/★★★★☆
おしまいのデート
(2011年刊/集英社)
〔概要〕
いろんな形の「デート」、あります。
祖父と孫。元不良と老教師。特に仲良くもない同じクラスの男子同士。協力して一緒に公園で犬を飼うOLと男子学生。
園児のお父さんとこっそり付き合っている保育士。
何気ないのに温かい人と人のつながりを軽やかに描く、5編収録の作品集。
〔感想〕
まぁまぁだったかな。全体的に淡い感じの短編揃いです。一番よかったのはやっぱり「ランクアップ丼」。
表紙になっているのもこのお話の内容です。どうってことのない日常の中に芽生えた、ちょっとしたドラマ。
そんなのを描かせたら、とてもうまい作家さんです。
評価/★★☆☆☆
僕らのご飯は明日で待ってる
(2012年刊/集英社)
〔概要〕
流されるがままの男子・葉山亮太と、頑なまでに我が道を進む女子・上村小春。
ちっともイマドキでもなければ情熱的でもない高校生の二人は、体育祭の競技“米袋ジャンプ”がきっかけで付き合う事になった。
大学に行っても、“恋愛”と言って良いのか分からない淡々とした関係を続ける二人だが、一つだけ自信を持って言えることがある。
それは、互いを必用としている事。でも人生は、いつも思わぬ方向に進んで行き…。
笑って、泣いて、じんわり温かい。読者の心に春を届ける、著者の魅力がぎゅっと詰まった優しい恋の物語。
〔感想〕
すごく切ない物語でした。書評には「読み終わったあと笑顔になれる」とあるけど、そうかなぁ?
中盤までの展開に比べて最後は急に重くなってしまうので、なんだかすごく切ないお話でした。
序盤はすごく勢いがあって面白かった。中盤は、二人の心がすれ違う様子がけっこうリアル。こういう恋愛、ありますよね。
あと、終盤、待合室で待つイエスの情景は、とてもリアルだった気がします。
作家自身、先生をやめて執筆に専念したことで、物語にだいぶ深みがでてきた気がしますね。
評価/★★★★☆
あと少し、もう少し
(2012年刊/新潮社)
〔概要〕
中学校最後の駅伝だから、絶対に負けられない。襷を繋いで、ゴールまであと少し!
走るのは好きか?そう聞かれたら答えはノーだ。でも、駅伝は好きか?そう聞かれると、答えはイエスになる──。
応援の声に背中を押され、力を振りしぼった。あと少し、もう少しみんなと走りたいから。
寄せ集めのメンバーと頼りない先生のもとで、駅伝にのぞむ中学生たちの最後の熱い夏を描く、心洗われる清々しい青春小説。
〔感想〕
とても爽やかな青春小説でした。『一瞬の風になれ』シリーズなんかもそうだけど、学生時代のスポーツものって熱く感動してしまいますね。
今回は6人がタスキをつなぐ駅伝が舞台なんだけど、それぞれにちゃんとストーリーやキャラが立ってて
物語としてもタスキが熱い思いとともにつながっていくのがお見事です。
この作家はやっぱり、この世代を描かせるとうまいですね。
評価/★★★★☆
春、戻る
(2014年刊/集英社)
〔概要〕
お見合いで知り合った和菓子職人との結婚を控えた36歳のさくらの前に、ある日突然、「兄」と名乗る青年が現れた。
12歳も年下の「お兄さん」は、さくらの結婚にあれこれ口出しを始めだし…。
人生で一番大切なことに気づかせてくれる、ハートフルウェディングコメディ。
〔感想〕
とてもほっこりとさせてくれる、あったかい作品でした。個人的には、こういう感じの物語はすごく好きです。映画にできそうな感じだよね。
謎の「お兄さん」の正体が気になるけど、結末は先延ばしにしつつ、今ここにある空気感をゆったりと楽しみたい。
破天荒なお兄さんにひっぱられて、さくら、山田さんの二人の心の距離がどんどん近づいていくのが楽しいです。
大人にとっても、子どもにとっても、人生の中で躓いたその瞬間は、他人から見れば大したことはなくても
本人にしてみれば人生を変えるほどの一大事だったりして。人それぞれの人生があって、人それぞれのドラマがある。
そういう当たり前さに気づかせてくれるので、瀬尾さんの作品は空気感がすごく好きです。
評価/★★★★☆
そして、バトンは渡された
(2018年刊/文藝春秋)
〔概要〕
森宮優子、17歳。「私には父親が三人、母親が二人いる。
家族の形態は、17年間で7回も変わった。でも、全然不幸ではないのだ。」
血の繋がらない親の間をリレーされ、継父継母が変われば名字も変わる。
だけど優子は、いつでも両親を愛し、愛されていた。
〔感想〕
正直、全体を通してまぁまぁという感じ。終盤まではわりと淡々とした感じだけど、最後は良かった。
いろんな親たちに振り回されてしまう主人公・優子。
そのせいか、感情表現に乏しく、「普通の中学生や高校生」なら大ごとになりそうなことでも、平然としている。
この筆者は中学校の先生をしていたから、このぐらいの年代の子たちのことをよくわかってるよね。
『僕の明日を照らして』で描いたのとはまたちょっと違う家庭の形で、いろんな家族がいるとは思うけど、森宮さんとの暮らしはすごく理想的。
本作では優子が無感情な分、歴代の親たちがすごく魅力的。特に、行動的な母・梨花や、森宮さんの二人。
時系列がバラバラになっていて、伏線やエピソードが最後には収束していくんだけど、特に森宮さんが良かったなぁ。
最後のあたりが特によかっただけに、そこまでの道のりがわりと冗長に思えたかな。
評価/★★★☆☆
君が夏を走らせる
(2017年刊/新潮社)
〔概要〕
中学の最後の駅伝大会を走りぬいた大田だが、その後は金髪ピアスでろくに高校も行かず、ふらふらしていた。
そんなある日、先輩の小さな子どもの面倒をみる羽目になった。
泣きわめかれたり、ご飯を食べなかったり、最初は振り回されっぱなしの日々だったが、いつしか
今まで知らなかった感覚が彼の心を揺り動かしているのだった…。
〔感想〕
『あと少し、もう少し』の外伝的エピソードです。駅伝では第2走者だった大田が高校生になり、ひと夏のアルバイトとして
気軽に引き受けた子守りに四苦八苦。すごくほっこりする物語でした。
鈴香が大田を受け入れていく過程や、公園で他のママさんたちと交流するあたりはなかなか現実的。
僕は子育てをしたことはないけど、やっぱり大変そうだなぁ(笑)
評価/★★★☆☆
傑作はまだ
(2019年刊/エムオン・エンタテインメント)
〔概要〕
「実の父親に言うのはおかしいけど、やっぱりはじめましてで、いいんだよね?」
そこそこ売れている引きこもりの作家・加賀野の元へ、生まれてから一度も会ったことのない
25歳の息子・智が突然訪ねてきた。
月10万円の養育費を振込むと、息子の写真が一枚届く。それが唯一の関わりだった二人。
真意を測りかね戸惑う加賀野だが、「しばらく住ませて」と言う智に押し切られ、
初対面の息子と同居生活を送ることに―。
孤独に慣れ切った世間知らずな父と、近所付き合いも完璧にこなす健やかすぎる息子、
血のつながりしかない二人は家族になれるのか?
その「答え」を知るとき、温かく優しい涙が溢れ出す。笑って泣ける父と子の再生の物語。
〔感想〕
すごく面白かったです。2日間で一気に読んでしまいました。
「世界観の優しさ」みたいなものがこの作家さんの良さだと思うので、こういうテイストはすごく好きです。
毒がないというか、出てくる人たちはみんないい人たちばかりなので、そこに物足りなさを感じる人が
いるのかもしれないけど、この作家さんはこういう系統の物語も得意だからね。
本作の中で、主人公の作家・加賀野が描く物語は「登場人物がよく死に、全体的に暗い」ものが多く
そういう小説に対してのアンチテーゼ的な意味合いもあるのかもしれないね。
舞台としてはシリアスな設定でも、登場人物がみんないい人たちで、それを許容出来て。
前向きな出来事ばかりしか起きなくても、実際の世界では小説のように起承転結が起きない。
逆説的にすると、裏の裏は表みたいな感じかな。
読者はみんな、いいヤツすぎる智が好きになるだろうし…
読みながら「からあげクン」を食べたくなるよね!(笑)
ただ、作品のタイトルとしては「きみを知る日」の方がよかったかもね。
評価/★★★★☆
その扉をたたく音
(2021年刊/集英社)
〔概要〕
29歳、無職。ミュージシャンへの夢を捨てきれないまま、怠惰な日々を送っていた宮路は、
ある日、利用者向けの余興に訪れた老人ホームで、神がかったサックスの演奏を耳にする。
音色の主は、ホームの介護士・渡部だった。
「神様」に出会った興奮に突き動かされた宮路はホームに通い始め、やがて入居者とも親しくなっていくのだが…。
〔感想〕
すごくあったかくて、爽やかな物語でした。
日々を漠然と生きていた宮地が、老人ホームの人々と交流することで自分を見つめなおしていきます。
中でも、本庄のおじいさんとのウクレレのエピソードが秀逸。すごくほんわかとして進んで行くのに
ある日突然、物語が急展開。こういうのは、この作家さんは本当にうまい。
何か大きな出来事って、現実の世界でも前触れなく起きるものだしね。
読んだ後に知ったんだけど、『君が夏を走らせる』に引き続き『あと少し、もう少し』の外伝的エピソードでした。
駅伝では第4走者だった吹奏楽部の渡部くんが介護士になっていました。
評価/★★★☆☆
夜明けのすべて
(2020年刊/水鈴社)
〔概要〕
職場の人たちの理解に助けられながらも、月に一度のPMS(月経前症候群)でイライラが抑えられない美紗は
やる気がないように見える、転職してきたばかりの山添君に当たってしまう。
山添君は、パニック障害になり、生きがいも気力も失っていた。
互いに友情も恋も感じていないけれど、おせっかいな者同士の二人は、自分の病気は治せなくても
相手を助けることはできるのではないかと思うようになるのだった…。
〔感想〕
すごく面白かったです。物語全体のほんわかとしたテイストはいつもの筆致だけど、扱うテーマがデリケートなものなので、丁寧な描写が秀逸でした。
ヨガをしている途中、PMSになってしまい友だちにあたってしまう美紗。
ある日突然パニック障害になってしまい、何もかもを失って、自分自身も見失った山添。
二人はお互いのことを気に掛けることで、少しずつ自分自身も救われていく過程が素晴らしいです。
身近な人に何かあった時、この二人のようにふるまいたいと思うし
そういうことを、深く考えずに、自然にサラリとできるようになれると素敵だよね。
評価/★★★★☆
夏の体温
(2022年刊/双葉社)
〔概要〕
夏休み、小学3年生の瑛介は血小板数値の経過観察で1ヶ月以上入院している。退屈な毎日に、どうしたっていらいらはつのる。
そんなある日、田波壮太という陽気な同学年の男子が病院にやって来た。低身長のための検査入院らしい。
遊びの天才でもある壮太と一緒に過ごすのは、とても楽しい。でも2人でいられるのは、わずかしかない…。
「夏の体温」
容姿にコンプレックスを抱く内向的な大学生の早智は、大学1年生の時に発表した小説が文学賞を受賞し、にわかに注目を集める。
そして3作目。執筆に苦戦し、それまでの作風とは異なった「悪人」を主人公にした小説に挑む。
そのモデルに選んだのが「ストブラ」(腹黒い)と周りから揶揄されている男子学生、倉橋だった。
早智は早速倉橋に会い、取材を進めてゆくのだが…。
「魅惑の極悪人ファイル」
「出会い」がもたらす「奇跡」を描いた全3篇。
〔感想〕
「魅惑の極悪人ファイル」が一番面白かったです。
内気なんだけど、小説のためなら驚きの行動力を発揮する早智と、ストブラの掛け合いが楽しかった。
タイトル作の「夏の体温」は病院で出会った小学生二人の友情を描いた物語。
最後の壮太からの贈り物は、いかにも小学3年生って感じで素敵。
ああいうアイデアというか気づきって、大人にはなかなか難しいものだよね。
評価/★★★☆☆
掬えば手には
(2022年刊/講談社)
〔概要〕
梨木匠は何をやっても平凡なことがずっと悩みだったが、中学3年のときに、人の心を読めるという特殊な能力に気づいた。
大学に入ってからは、口の悪い店長の営むオムライス屋「NONNA」でバイトをしつつ、友だちに囲まれて楽しい日々。
ところが、バイト先で出会った少し年上の常盤さんは、匠に心を開いてくれない。
つらそうな常盤さんに少しでも心を開いてもらおうと、匠はあれこれと話しかけるのだが…。
〔感想〕
図書館で借りて読みました。瀬尾まいこさんの筆致は、とにかく優しい。
文章の行間から、ほのぼのとした優しさがあふれてるんだよね。この物語もそう。
平凡であることに悩む大学生の梨木くんを中心に進むんだけど、彼の周りには
ふいに声をかけたくなるような、何かに悩んだり、伝えられない思いを持った人たちが集まっている。
梨木くんの才能は、彼らの声を聞き、寄り添ってあげることができること。
言ってしまえばそれだけの作品なんだけど、その優しい時間が、すごく心地いい。
常盤さんの抱えている秘密はたしかに重いけど、それすらもマイルドな風のように感じられるんだよね。
初回版限定付録小冊子の『掬えば手には アフターデイ』もついてたんだけど、これも面白かった。
この続きもぜひ読みたいなぁ。
評価/★★★☆☆
私たちの世代は
(2023年刊/文藝春秋)
〔概要〕
小学3年生になる頃、今までにない感染症の流行で不自由を余儀なくされた二人の少女、冴(さえ)と心晴(こはる)。
母子家庭の冴は中学生になりイジメに遭い、心晴は学校に行くきっかけを失って以来引きこもりになってしまう。
それでも周囲の人々の力添えもあり、やがて巣立ちの季節を迎える――。
〔感想〕
コロナ禍で失ったり傷ついたりした少女たちの物語。面白かったです。
語り口というか、筆致が瀬尾さんらしくて優しかったです。
彼女たちのように「感染症で苦労した時代があった」と実際に語れるのはまだ少し先だろうけど…
今の子どもたちがそうなったときに「本当に共感できる相手」が近くにいてくれたらいいよね。
評価/★★★★☆
| 1 | 卵の緒 | 2002/11 | マガジンハウス | ★★★★☆ |
| 2 | 図書館の神様 | 2003/12 | マガジンハウス | ★★★★☆ |
| 3 | 天国はまだ遠く | 2004/06 | 新潮社 | ★★★★☆ |
| 4 | 幸福な食卓 | 2004/11 | 講談社 | ★★★☆☆ |
| 5 | 優しい音楽 | 2005/04 | 双葉社 | ★★★☆☆ |
| 6 | 強運の持ち主 | 2006/05 | 文藝春秋 | ★★★★☆ |
| 7 | 温室デイズ | 2006/07 | 角川書店 | ★★★☆☆ |
| 8 | 見えない誰かと(エッセイ) | 2006/12 | 祥伝社 | ★★★☆☆ |
| 9 | ありがとう、さようなら(エッセイ) | 2007/07 | メディアファクトリー | ★★★☆☆ |
| 10 | 戸村飯店 青春100連発 | 2008/03 | 理論社 | ★★★★★ |
| 11 | 僕の明日を照らして | 2010/02 | 筑摩書房 | ★★★★☆ |
| 12 | おしまいのデート | 2011/01 | 集英社 | ★★☆☆☆ |
| 13 | 僕らのご飯は明日で待ってる | 2012/04 | 幻冬舎 | ★★★★☆ |
| 14 | あと少し、もう少し | 2012/10 | 新潮社 | ★★★★☆ |
| 15 | 春、戻る | 2014/02 | 集英社 | ★★★★☆ |
| 16 | 君が夏を走らせる | 2017/07 | 新潮社 | ★★★☆☆ |
| 17 | ファミリーデイズ(エッセイ) | 2017/11 | 集英社 | − |
| 18 | そして、バトンは渡された | 2018/02 | 文藝春秋 | ★★★☆☆ |
| 19 | 傑作はまだ | 2019/03 | エムオン・エンタテインメント | ★★★★☆ |
| 20 | 夜明けのすべて | 2020/10 | 水鈴社 | ★★★★☆ |
| 21 | その扉をたたく音 | 2021/02 | 集英社 | ★★★☆☆ |
| 22 | 夏の体温 | 2022/03 | 双葉社 | ★★★☆☆ |
| 23 | 掬えば手には | 2022/07 | 講談社 | ★★★☆☆ |
| 24 | 私たちの世代は | 2023/07 | 文藝春秋 | ★★★★☆ |
| 25 | そんなときは書店にどうぞ(エッセイ) | 2024/12 | 水鈴社 | − |
| 26 | ありか | 2025/4 | 水鈴社 | − |