文藝歴譜タイトル

瀧羽 麻子 (1981−)
たきわ・あさこ(女性)
1981(昭和56)年、兵庫県芦屋市生まれ。京都大学経済学部卒業。
2007年の『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。
現在は東京都在住で、会社勤めの傍ら執筆活動をしている。

*読んだ著書*/著作リスト


いろは匂へど
(2014年刊/幻冬舎)

〔概要〕
京都麩屋町で小さな和食器店を営む紫は、恋人もいないまま、気付けば三十路を過ぎていた。
そんな紫に無邪気で大胆に好意を示してくるのは、15歳も年上の草木染め職人・光山(こうざん)。
いつも彼の本意が読めなくて、そっけない態度しかとれないのだが、想いは募る一方。
しかし、無邪気で大胆な一方で強引なことをしない彼に、紫は心を持て余すのだが…。
寺町、西陣、大原、鴨川、麩屋町、祇園祭…。京都の街を舞台に、ちょっぴりビターなラブストーリー。

〔感想〕
新聞の書評で見かけて面白そうだったので、図書館で借りて読んでみました。
女性作家ならではの繊細な心理描写がすごく瑞々しくて、とても面白かったです。
全体を通してみると、物語としてはわりと小さな世界に収束しているんですが
その分、登場人物(特に紫)の心の揺れ幅みたいなものがしっかりと感じられました。
舞台が京都なのも、よく知っている街角や辻が出てきて楽しかったです。
初めて読んだ作家さんですが、けっこう好みの筆致なので、別の作品も読んでみたいです。

この作品を読んであらためて思ったことですが、男は女心を知らないし、女は男心を知らない。
考え方というか、生き方というか、根本的に男と女はすれ違うようにできているのかも。
男は好きな女性を愛したいけど、自分を愛してくれる女性も好きになれる。
だけど女は、自分が好きになった男しか愛せないんだろうなぁと思います。
どんなに自分に尽くしてくれて、大切にしてくれて、優しくしてくれる男でも、女にとって恋は別物。
たとえ自分のことを見てくれなくても、自分が恋した男しか愛せないものなんでしょうね。
2001年の秀作韓国映画『春の日は過ぎゆく』を久しぶりに観たくなったなぁ。

評価/★★★★☆


左京区七夕通東入ル
(2009年刊/小学館)

〔概要〕
「たっくんて呼んでいい?」
京都での学生生活も4年目を迎えた七夕の夜、花は友人のアリサから合コンに誘われ、たっくんと出会う。
三条木屋町の店にひとり遅れてあらわれた彼は、その場にはそぐわない一風変わった雰囲気の持ち主だった。
文系の学生で数学嫌いの花にとって、理学部数学科のたっくんは謎に満ちていて、彼の暮らす学生寮の友人たちもかなりキテレツな理系男子ばかり。
食べ物にうるさい巨漢アンドウくんの研究対象はミクロの遺伝子、おかっぱ頭のヤマネくんは工業化学科で専攻テーマは爆薬。
ゆかいな仲間たちに囲まれ、花はこれまで経験しなかった不可思議でにぎやかなキャンパスライフに巻き込まれていくが、
いまどき携帯電話も持たないたっくんとの距離はゆるやかにしか縮まらない。やがて花は恋のライバルが「数学」であることを知るのだが…。

寮でのたこ焼きパーティー、鴨川デルタでの花火、自転車デート、学園祭、卒業旅行…。
学生の街・京都を舞台に、かけがえのない時間と仲間たち、ほっこりと育まれる等身大の恋を描く。

〔感想〕
なかなか面白かったです。
劇的な展開があるわけでもないし、いかにも京都の学生っぽい、ほんわかした空気が漂う物語でした。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『鴨川ホルモー』なんかもそうだけど、京都の街並みに根ざした
物語というのは、京都に住んだ経験のある人にとっては、より楽しさが増す気がするね。
土地勘があると、建物や地名、通り名などを見て、その距離感とか景色をイメージできるからね。
本作のスピンオフ的な続編もあるみたいなので、また読んでみようと思います。

評価/★★★☆☆


左京区恋月橋渡ル
(2012年刊/小学館)

〔概要〕
毎朝六時半のラジオ体操ではじまり、「いただきます」の声を合図に、ほかほかの朝食が食堂のテーブルに並ぶ。
京都の左京区の学生寮で四年間なじんだ生活は、山根が大学院生になった春からもつづいている。
寮には、生物学科の安藤や電気電子工学科の寺田、たまに顔を出す数学科の龍彦も含め、趣味と研究を偏愛しすぎるゆかいな仲間ばかり。
山根も例外ではない。工業化学科でエネルギーを研究しつつも、花火をはじめ何かが燃える様子を見ているだけで気持ちがたかぶるほど。
当然、異性のことなんて頭の片隅にもなかったのだが―。
糺の森を訪れたその日、突然の雷雨に浮かび上がる満開の山桜の向こうに、白いワンピースを着た女のひとがいた。
ずぶ濡れになった山根は熱を出し、熱が下がってからもなにやら調子がおかしい。
そして、龍彦のガールフレンドの花にたやすく言い当てられる。「山根くん、もしかして好きなひと、できた?」
花は言う、もう一度“姫”に会いたければ、下鴨神社に毎日参拝すべし―と。

葵祭や五山送り火、京都ならではの風物を背景に、不器用な理系男子の瑞々しい恋のときめきを愛おしく描く。

〔感想〕
すごく面白かったです。
前作でひと通りの人物描写は済んでいるので、違和感なく世界観に入り込めました。
今作の主人公は山根くん。前作では主人公の友達の一人でしかなかったのが、今回はすごく生き生きと「初恋」しています。
女性の扱いが不得手な男子諸子は、こういう経験を誰もがしてるだろうという、悩める日々。
筆者は女性なのに、まるで男性が書いているような感情描写で、すごく共感できました。
前作同様、京都のいろんな街角が描かれるのが良かった。
京都に住んでいた人間にとっては、すごく懐かしい場所やイベントばかり。
特に最後の、五山の送り火が良かった。不意の電話に出たときの山根くんの気持ちがすごくよくわかって、グッときました。
今度はぜひ安藤くんを主人公に、さらなる続編を期待したいです。

評価/★★★★☆


うさぎパン
(2007年刊/メディアファクトリー)

〔概要〕
お嬢様学校育ちの優子は、高校生になって同級生の富田君と大好きなパン屋巡りを始める。
継母と暮らす優子と、両親が離婚した富田君。二人はお互いへの淡い思い、家族への気持ちを深めていく。
そんなある日、優子の前に思いがけない女性が現れ…。
第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。

〔感想〕
これが筆者のデビュー作。ほんわかとした味わいの中にも、不思議な余韻の残る作品でした。
物語は基本的に主人公・優子の一人語りなので、周囲の人物たちの描写が少し薄かったかな。
どことなく謎めいた「美和ちゃん」や「ミドリさん」、富田くんの心理が、なんとなくわかりそうでわからない。
でもそれが高校一年生の女の子ならではの狭い視野、一生懸命さなんだとしたら、なかなかリアルな筆致だと言えるのかもしれないですね。
中盤からの「聡子」のくだりは、やや唐突な気がしました。

評価/★★★☆☆


白雪堂
【改題】白雪堂化粧品マーケティング部峰村幸子の仕事と恋
(2009年刊/角川書店)

〔概要〕
基礎化粧品「シラツユ」が看板ブランドの中堅化粧品会社“白雪堂”。
技術力が高くてアットホームなこの会社に就職した峰村幸子だったが、不況の影響で売れ行きは先細る一方。
ブランドの若返りを図るプロジェクトチームに抜擢された幸子は、ブランド力を取り戻すためのあるプランを思いつく。
しかし、企業スパイ疑惑やM&Aなど、峰村の行く手は前途多難で…。

〔感想〕
ぼちぼちだったかな。帯には「乙女系経済小説」とか大層なキャッチコピーがついてるけど
経済小説としては池井戸潤さんの作品の方が深みはあるし、重すぎるイメージかなぁ。
改題前のタイトルは、長すぎるけど内容的にはこちらがまさにジャストフィット。内容を一文で現すとこんな感じ。
若手OLが仕事に恋に頑張ってます!という内容です。
先輩社員の槙さんやマダムの個性付けがやや曖昧で、もう少し強烈なキャラにしたほうが物語に面白みがあったかも。

評価/★★☆☆☆


はれのち、ブーケ
(2010年刊/実業之日本社)

〔概要〕
神戸・北野のチャペル。学生時代から10年の交際を経て、ひと組のカップルが結婚式を迎えた。
祝福の為に集まったのは、かつてのゼミ仲間たち。
30歳―仕事、恋愛、結婚、出産…それぞれの人生を選び、歩んできた彼らが、
それでも悩み、焦り、迷いながらも見つける幸せの形、等身大の生き方とは。
結婚式の一日を舞台に、六人の男女それぞれの事情を健やかかつ繊細な筆致で描く。

〔感想〕
すごくハッピーでいい物語でした。結婚式って、主役の二人にも、その近しい友達や家族、職場の同僚なんかにも、様々な形で大きなイベントで、
その時のそれぞれの生活や日常が投影されていくんだなぁと思います。
仲の良かった6人組が同じく「その日」を迎えたものの、その時の立ち位置は若い頃のそれとは大きく違っていて。
理想を追いかけ続けている者や、描いていた未来とは違う現在を歩いている者…それぞれの心理描写が丁寧に描かれていて、とても面白かったです。

評価/★★★☆☆


オキシペタルムの庭
(2012年刊/朝日新聞出版)

〔概要〕
資格学校で派遣社員として働く莢子(さやこ)。同僚の望や志乃と楽しく働いており、恋人の篤志との仲も順調。
32歳の誕生日を迎え、「そろそろ結婚したい、普通に幸せになりたい」と思う日々。
そんなある日、偶然街で恋人の篤志を見かける。急ぎ足で歩く彼の跡を何気なくついて行くことで、
彼の思わぬ秘密を知ってしまうのだが…。

〔感想〕
ちょっとイマイチだったかな。『左京区〜」シリーズのようにほのぼのとした物語かと思いきや、意外なサスペンスタッチ。
莢子が恋人の「秘密」を知った中盤から物語は思わぬ方向に動き出します。
(以下、ネタバレ注意。マウスでなぞってお読みください)
簡単にストーリーを書いていくと、大好きな恋人が宗教(自己啓発系セミナー)にハマっていることを知り、疑心が膨らんでいき、結局はムリと別れる、というお話です。
猪突猛進ガールの望、年上のお姉さんながら何か憂いを感じる志乃、不気味な存在感を持つ誠心会のおばあさんと、伏線を張れる要素は多くあるものの、
特に大きな事件も起こらず。
思い切って莢子が宗教組織に拉致(睡眠薬入りのお茶?とか、白い部屋とか、雰囲気はそれっぽい)されるとか、友達の望が代わりに事件に巻き込まれるとか、
篤志がとんでもない行動に出るとか、大きな動きがあれば面白かったのに、と思います。起承転結の「転」が感じられなかったので、物足りない感じがしました。


評価/★★☆☆☆


ふたり姉妹
(2015年刊/祥伝社)

〔概要〕
東京の製菓メーカーで企画職として働いている29歳の聡美が久しぶりに故郷に帰ってきた。
実家を出たことがなく、ずっと田舎暮らしの3つ下の妹・愛美は、この機会に姉の家で都会の暮らしを楽しんでみたいと思い立つ。
部屋を貸すことを嫌がる姉や、困惑する婚約者を説き伏せ、愛美は東京に発つが、聡美の家で姉の恋人と遭遇。
プライドが高く向上心の強い姉の突然の帰省を訝しんでいた愛美は彼に探りを入れてみることに。
聡美が実家に帰ってきた本当の理由とは…?

〔感想〕
なかなか面白かったです。性格も考え方も趣味嗜好も正反対の、よくある姉妹の物語。正直言って、どうってことないお話なんだけど、
それぞれの感情の機微みたいなものが丁寧に描かれていて、そこはさすがに女性作家ならでは。
すれ違う二人の結末は、決定的に破滅してしまうのか、それとも仲直りできるのか。
それぞれの展開を予想しながら読めたので、広がりという意味でも面白かったかな。
田舎の実家と東京の聡美の家、限られた2か所で物語が進むので、舞台劇とかでも表現できそうですね。

評価/★★★☆☆


左京区桃栗坂上ル
(2017年刊/小学館)

〔概要〕
父親の仕事の都合で転勤の多い幼少期を過ごした璃子は、4歳の時、引っ越し先の奈良で果菜と出会う。
二人はすぐに仲良くなって、八百屋を営む果菜の家で毎日のように遊んだ。それに時々つき合ってくれたのが、果菜の兄だった。
幼い璃子は、ある日こんなことを言った。「わたし、お兄ちゃんのおよめさんになる」
やがて璃子は埼玉へ引っ越し、果菜たちと離ればなれになるのだが、高校進学のタイミングで大阪へ来て、再会を果たす。
璃子はそれから「お兄ちゃん」のいる大学へ進学。4回生になった兄は、大学院進学をひかえて研究に追われていた。
穏やかな学生生活が続いていたが、ある秋晴れの日、二人にとって大きな事件が起きるのだった…。
みずみずしい恋愛模様で人気の「左京区」シリーズ、5年ぶりの新作。

〔感想〕
最初は登場人物がやや伏せられているので、「あれ?外伝的な別物かな?」と思ったんですが、ちゃんとした続編でした。
今回の主人公は安藤くん。うっすらですが、龍彦、山根、花ちゃんも登場します。
物語は璃子と安藤を中心に進んで行くんですが、さほど大きな波風も立たず、やや淡々とした語りなので、物語に入り込むというよりは横から見てる感じ。
誰かに話しかけてる安藤の語りも、最終的に落ち着くところに落ち着いたので、すごくスッキリした読了感でした。
最後はエピローグ的になってたので、これで「左京区シリーズ」は三部作で完結なのかな。

評価/★★★☆☆


ありえないほどうるさいオルゴール店
(2018年刊/幻冬舎)

〔概要〕
北の町でひっそりと営業しているオルゴール店。
そこでは、風変わりな店主が、“お客様の心に流れる曲”を小さな箱に仕立ててくれます。
耳の聞こえない少年。
音楽の夢をあきらめたバンド少女。
不仲だった父の法事で帰郷した男性。
長年連れ添った妻が倒れ、途方に暮れる老人。
彼らの心には、どんな音楽が流れているのでしょうか―。

〔感想〕
すごく面白かったです。この筆者ならではの暖かい筆致も好みだし、何より舞台のオルゴール店がいい。
連作短編で、主役はあくまでもお客さんたち。
様々な理由でフラリと訪れたお店で、不思議な音楽の魔法にかかっちゃうんだよね。
特に、バンド少女たちの話がよかったなぁ。オルゴールの合奏って、なかなか斬新なアイデアだよね。
読みながら、ディテールは違うけど川口俊和さんの『コーヒーが冷めないうちに』が頭をよぎっていました。
お向かいの喫茶店は、もしかしたらこの店かも…と思いきや、この喫茶店もしっかり伏線は回収されました。
最後の余韻も爽やかだし、すごくいい物語でした。

評価/★★★★☆


乗りかかった船
(2017年刊/光文社)

〔概要〕
創業百周年を迎える中堅の造船会社「北斗造船」。
そこで働く人々には、配属、異動、昇進、左遷…人事の数だけ様々なドラマがある。
大学院で機械工学を学んだが入社早々営業に配属された雄平は、待望の異動で人事部に回され…。(「海に出る」)
事業戦略室室長に抜擢された玲子。責任ある仕事にはりきるものの、未だ男性中心の風潮が強い業界で数々の価値観の相違に直面し……。(「波に挑む」)
他、「舵を切る」、「錨を上げる」、「櫂を漕ぐ」、「港に泊まる」、「船に乗る」。働く人びとの苦悩と奮闘を鮮やかに描く、全七編を収録。

〔感想〕
なかなか面白かったです。
現実社会にもありふれた人事のあれこれを描いた連作短編。
キャラがそれぞれ立っていて、そのままドラマになりそうな感じです。
僕は全くそうじゃないんだけど、昇進とか、偉くなりたいという価値観はやっぱり存在するし
「半沢直樹」シリーズもそうだけど、そういう描写って、客観的にみるとすごく滑稽に思えるよね。
作中に出てくる表現だけど、「社長の代わりは誰でもいる。だけどお前の代わりはお前しかいないんだな」と。
どんな役職に就いていたって、どんな仕事をしていたって、そこがたくさんの人が歯車として働く企業の中である限り
一人の存在は歯車でしかないし、それ以上ではないはずなんだよね。
よっぽど一人で働いてるアーティストや職人さん等ではないかぎり、それはどんな業界でもそうだと思うし。
仕事に対する価値観って人それぞれだと思うけど、この物語の中では、そういう多様性も温かく包まれるように描かれていて
すごく好感が持てました。

評価/★★★☆☆


ぱりぱり
(2014年刊/実業之日本社)

〔概要〕
才気あふれ、17歳という若さでデビューをとげた詩人・すみれ。
幼い娘の成長に不安を覚える母、生徒に詩人としての才能を見出した中年教師、
姉の自由さに苛立ちながらその才能に憧れる妹、伸び悩む詩人に苦悩する編集者、
クラスメートの名前が書かれた詩集に出会う販売員、アパートの隣人にときめく大学生。
すみれと係わったひとびとが、その季節のあとに見つけたものとは―。

〔感想〕
爽やかで、すごく面白かったです。
章ごとに主人公の違う連作短編で、少しずつヒロインの菫を描いていくもの。
すごくクセのある菫を気遣うことで、周囲の人々たちが少しずつ何かに気づく…そんな物語です。
こういうタイプの物語はどうしても好みが分かれるような気がするけど、僕は好きだなぁ。
章の並びも絶妙。特に、最後の章がよかったなぁ。
人は誰しも、愛されて生まれてきて、誰かを、何かを愛しながら生きていく。
そういうことの大切さみたいなものをあらためて感じさせてくれる、温かい物語でした。

評価/★★★☆☆


もどかしいほど静かなオルゴール店
(2021年刊/幻冬舎)

〔概要〕
「耳利きの職人が、お客様にぴったりの音楽をおすすめします」
ここは、お客様の心に流れる曲を、世界でたったひとつのオルゴールに仕立ててくれる、不思議なお店。
"小さな箱"に入っているのは、大好きな曲と、大切な記憶…。
北の小さな町にあった『ありえないほどうるさいオルゴール店』が、最果ての南の島で、リニューアルオープンしました!
今回も、7つの物語が奏でる美しいメロディーに載せて、やさしい涙をお届けします。

〔感想〕
『ありえないほどうるさいオルゴール店』の続編。前作では北国にあったオルゴール店が、南の島に移転してリニューアルオープン。
イメージとしては、北海道から沖縄って感じなのかな。
「祈りの唄を歌うババ様がいる独特の文化のある島」というと、去年読んだ李琴峰さんの『彼岸花が咲く島』を思い出しました。
今作では「客の心の音楽を聴く」場面は少なく、あまり店主自体の活躍はない感じです。
店を訪れたお客さんたちは、それぞれに自分で「大切な何か」に気づいていきます。
どの話もよかったけど、「バカンス」と、前作の続きのエピソードの「みちづれ」がよかった。

評価/★★★☆☆


サンティアゴの東 渋谷の西
(2015年刊/講談社)

〔概要〕
人生に迷っている時に、サンティアゴで再会した初恋の人。
家族について何も話してくれない婚約者の両親に初めて会いに、青森へ。
上海に住む男性を訪ねてきたのは、何年も会っていない娘の恋人だった。
世界の片隅で、日本の片隅で、今日も誰かが小さな運命の一瞬を迎えている。
温かい感動が降り積もる、『うさぎパン』の著者、初の短編集。

〔感想〕
描かれる舞台はバラバラで統一感はなく、どれも思わせぶりな話ではあるんですが、それが逆に不思議な余韻があってよかった。
そう感じるかどうかは、読み手の精神状態にもよるのかもしれないけどね。
最後の「渋谷で待つ」が一番よかったかな。
長く連れ添ってきて、相手のことをよくわかっているようでいて、意外とわかっていない…そういうことって、やっぱりあるもんね。

評価/★★★☆☆


あなたのご希望の条件は
(2020年刊/祥伝社)

〔概要〕
千葉香澄は、転職エージェントに勤める四十歳のキャリアアドバイザー。
 「転職した先輩からすすめられて…」
 「営業以外ならなんでも…」
 「勤め先が倒産して…」
 「あこがれの会社に再挑戦したい…」
…会員から様々な要望を聞き取り、相応しい求人を、ちょっぴり頭の固いAI「ソフィア」を活用しながら紹介するのが仕事だ。
ときには悩みを打ち明けられたり、あらためて再考を促したりもする。
十人十色の仕事観や人生模様にふれるうち、自分自身の仕事や人生も見つめ直すことに―。

〔感想〕
面白かったです。『乗りかかった船』にも通ずる、職場を舞台にした連作短編モノ。
転職をしようとやってくる会員は様々な事情を抱えていて、彼ら・彼女たちのそんな背景も含めて
香澄は的確な転職・人生の指針を選ぶアドバイスをします。たくさんの会員の人生の後押しをしながら
香澄自身も自分の心の本音に気づいていく…という物語。こういう群像劇は好きだなぁ。
章のタイトルは1月、2月と1ヶ月ごとに分かれているんだけど、一ノ瀬、二宮と、その数字ごとの人物が登場するのも遊び心があっていいよね。

評価/★★★★☆


虹にすわる
(2019年刊/幻冬舎)

〔概要〕
椅子作りの才能があるのに、実家のじいちゃんと修理屋をしている徳井。
椅子への情熱を持て余し、大手工房を飛び出して、徳井のもとへやってきた魚住。
違うタイプのふたりが、学生時代の約束にしたがって、小さな工房を始める。
不器用なふたりは、友情でも恋でも仕事でもギクシャク…。
それでも、お互いの能力を誰よりも認め、お互いの存在を誰よりも求めていた。
正反対のふたりだから、かなえられるものがある!
夢を失いかけたふたりが、つまづきながらも、同じ未来に向かって歩き始める。
性格も能力も正反対のアラサー男子が、“10年前の夢”を叶えることにした――。

〔感想〕
ボチボチかな。凸凹コンビのドラマって、構図としてはよくある感じ。
そして、その枠を超えきれていない作品という感想です。「よくある物語」の範囲内かなぁ。
キャラクター設定が対照的で、そこにサブキャラの菜摘と胡桃が入ることで
すんなりと読みやすいし、物語にも入っていける。
だけど物語の主観は徳井と魚住のやりとりで進んで行くので、そこに肝心の椅子へのこだわりはちょっと味付けが薄いかな。
椅子づくりで対立してるシーンを語りだけではなく、もう少し広げて描いてくれたら、物語にもう少し奥行きが感じられたかも。

評価/★★★☆☆


1 うさぎパン 2007/8 メディアファクトリー ★★★☆☆
2 株式会社ネバーラ北関東支社 2008/2 メディアファクトリー
3 白雪堂
【改題】白雪堂化粧品マーケティング部峰村幸子の仕事と恋
2009/7 角川書店 ★★☆☆☆
4 左京区七夕通東入ル
左京区シリーズ
2009/7 小学館 ★★★☆☆
5 はれのち、ブーケ 2010/11 実業之日本社 ★★★☆☆
6 左京区恋月橋渡ル
左京区シリーズ
2012/4 小学館 ★★★★☆
7 オキシペタルムの庭 2012/10 朝日新聞出版 ★★☆☆☆
8 いろは匂へど 2014/4 幻冬舎 ★★★★☆
9 ぱりぱり 2014/7 実業之日本社 ★★★☆☆
10 サンティアゴの東 渋谷の西 2015/2 講談社 ★★★☆☆
11 ふたり姉妹 2015/5 祥伝社 ★★★☆☆
12 花嫁の花 2015/8 朝日文庫
13 失恋天国 2015/9 徳間書店
14 ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ 2016/5 集英社文庫
15 松ノ内家の居候 2017/3 中央公論新社
16 左京区桃栗坂上ル
左京区シリーズ
2017/6 小学館 ★★★☆☆
17 乗りかかった船 2017/9 光文社 ★★★☆☆
18 ありえないほどうるさいオルゴール店
オルゴール店シリーズ
2018/5 幻冬舎 ★★★★☆
19 たまねぎとはちみつ
千春シリーズ
2018/11 偕成社
20 うちのレシピ 2019/2 新潮社
21 虹にすわる 2019/8 幻冬舎 ★★★☆☆
22 女神のサラダ 2020/3 光文社
- 黒い結婚 白い結婚
シュークリーム(オムニバス)
2020/6 講談社文庫
23 あなたのご希望の条件は 2020/9 祥伝社 ★★★★☆
24 もどかしいほど静かなオルゴール店
オルゴール店シリーズ
2021/7 幻冬舎 ★★★☆☆
25 博士の長靴 2022/3 ポプラ社
26 ひこぼしをみあげて
千春シリーズ
2022/11 偕成社
27 東家の四兄弟 2023/10 祥伝社
28 さよなら校長先生 2024/12 PHP研究所
29 妻はりんごを食べない 2025/6 幻冬舎
30 かわせみのみちくさ
千春シリーズ
2025/7 偕成社