文藝歴譜タイトル

池井戸 潤 (1963.6.16−)
いけいど・じゅん(男性)
岐阜県出身。慶応義塾大学卒。
1988年、三菱銀行に入行。1995年、32歳の時に同行を退職し、コンサルタント業のかたわら、ビジネス書の執筆を始める。
1998年、『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞、作家デビュー。
2010年、『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を受賞。
2011年、『下町ロケット』で第145回直木賞受賞。
元銀行員としての経験を生かしたミステリーにとどまらず、幅広いジャンルのエンタメ作品を執筆している。

*読んだ著書*


下町ロケット
(2010年刊/小学館)

下町ロケット〔概要〕
研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。
そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。
圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。
創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有する
ある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。
だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた…。

〔感想〕
ものすごく面白くて、一気に読みきってしまいました。大企業や権力に睨まれながら、持てる技術と結束力で困難に立ち向かっていく様子が、とても痛快です。『プロジェクトX』とか『プロフェッショナル』みたいな、頑張ってる日本の技術者みたいな物語に、涙腺がゆるくなっているのは年のせいかな?(笑)最後の結末は当然予想できるものだけど、そこに向かっていくボルテージの沸騰ぶりは予想以上のものでした。最後はかなりグッときましたね。
テレビドラマをほとんど観ないので全然知らなかったんだけど、人気ドラマの原作を書いてる作家さんなんですね。「倍返しだ!」という言葉はさすがに知ってますよ。他の作品も読んでみたいな。

評価/★★★★★


オレたちバブル入行組
(2004年刊/文芸春秋)

〔概要〕
大手銀行にバブル期に入行して、今は大阪西支店融資課長の半沢直樹。
支店長命令で無理に融資の承認を取り付けた会社が倒産した。
すべての責任を押しつけようと暗躍する支店長。四面楚歌の半沢には債権回収しかない。
夢多かりし新人時代は去り、気がつけば辛い中間管理職。そんな世代へエールを送る痛快エンタメ。

〔感想〕
「倍返しだ!」で有名なテレビドラマの原作。一般人にはあまり縁のない銀行業界の裏話的なところもあり、ストーリーとしては面白かった。作者自身が元銀行員ということで、得意ジャンルなんですね。悪がはびこっていて、最後には虐げられていた正義が勝つという、勧善懲悪でわかりやすいストーリーではあるんだけど、残念ながら主人公があまり好きにはなれませんでした。たしかに、追い詰められて苦しいのはわかるけど、いざとなると相手を恫喝したり、最終的には自分の欲のままに行動するし、結局同じ穴のムジナなんじゃないかと思ってしまいました。思ってたほど好人物じゃないというか、かなりクセのある主人公ですね。

評価/★★★☆☆


オレたち花のバブル組
(2004年刊/文芸春秋)

〔概要〕
巨額損失を出した一族経営の老舗ホテルの再建を押し付けられた、東京中央銀行の半沢直樹。
会社内の見えざる敵の暗躍、金融庁の「最強のボスキャラ」との対決、出向先での執拗ないじめ。
四面楚歌の状況で、絶対に負けられない男たちの一発逆転はあるのか?
「バブル入社組」世代の苦悩と闘いを鮮やかに描く「半沢直樹」シリーズ第2弾。

〔感想〕
感想は前作とほぼ同じ。悪い人たちの悪事を暴いていく構図は痛快だけど、やっぱり「銀行・金融界」という同じ世界の中で繰り広げられている権力闘争の域を出ないので、「他人事」感が大きい物語です。なんだかんだ言いながらも、同期の仲間に助けられてピンチを脱して、最終的には悪者を倒してめでたしなんだけど、どうにも一般人の感覚とはずれてる気がする。エリートとか出世街道爆進の人たちって、こうなのかなぁ。

評価/★★★☆☆


ロスジェネの逆襲
(2012年刊/ダイヤモンド社)

〔概要〕
ときは2004年。銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。
そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。
アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。
ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。
責任を問われて窮地に陥った半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た―。
「半沢直樹」シリーズ第3弾。

〔感想〕
舞台は前作から数ヶ月後。権力闘争での大暴れから出向を命じられた半沢直樹は、系列子会社の営業企画部長に就いている。そしてそこにも、当然のように腐敗に満ちた社会構造があって、我慢ならない半沢直樹が三度大立ち回りを演じるというお話。読むと確かにスッキリはするけど、その反面、どこかでやっぱり好きになれない世界だとも感じる。半沢直樹の情報源は結局元同僚だったり、弱みを握った上司や部下を恫喝してのものだったりするので、結局は真っ黒な社会構造に彼自身もどっぷり漬かってるから、そう感じるのかもしれません。最後の「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。まずはその原則に立ち返り、それを忘れないようにする」というセリフには心打たれましたけどね。
ドラマ(観たことはないけど)では堺雅人が主人公の半沢直樹を演じているわけだけど、シュッとした彼が演じればスマートな切れ者というイメージだけど、原作の半沢直樹には、汗っかきなことと、しょっちゅう飲みに行ってること、キレたらとことん相手を追い詰める獰猛なイメージが強い。ドラマの配役を全く知らなければ、堺雅人というキャスティングは僕には思い浮かばないなぁ。僕の半沢直樹のイメージは、もっとこう…イカツイ感じなんだけどなぁ。

評価/★★★☆☆


銀翼のイカロス
(2014年刊/ダイヤモンド社)

〔概要〕
東京中央銀行営業第二部次長の半沢直樹は、中野渡頭取の命令で経営再建中の帝国航空の再生を任される。
ようやく再建案が実るかに見えた矢先、政権交代が起き、新たな大臣は再建策を白紙に戻し、再生タスクフォースに再建を移譲させようとする。
半沢たち債権者の銀行は、巨額の債権放棄を求める再生タスクフォースと激突するのだが…。
政治家との対立、立ちはだかる宿敵、行内の派閥争い―。プライドを賭け戦う半沢に勝ち目はあるのか?
「半沢直樹」シリーズ第4弾。

〔感想〕
なかなか面白かったです。前作より面白かったんじゃないかな?
今回の敵は政権与党というより、独断専行する大臣と、その私的機関のタスクフォース。相手が悪いかなと思いつつも、毎回おなじみの銀行ヤクザぶりで爽快な解決へと導いていきます。
今回は、相手の弱みを見つけて恫喝するわけでもなく、最終的には自分たちの銀行も大きな痛手を追ってしまうことになるので、そのあたりが予定調和じゃない風味も出ていて良かったのかも。

今回の舞台は、言うまでもないJAL再生がモデル。

物語の経緯は、現実の流れと驚くほど酷似していますね。

評価/★★★★☆


下町ロケット2 ガウディ計画
(2015年刊/小学館)

下町ロケット2〔概要〕
ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年。町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は…

〔感想〕
前作同様、ものすごく面白かったです。効率化という現代の産業改革に挑みながらも、決して失ってはならない職人の魂。手を抜かず、ひとつの仕事をきっちりとやり遂げる日本の技術者たちの心。このシリーズ、やっぱり大好きです。最後の章は職場で昼休みに読んでたので、涙をこらえながら読むのが大変でした。2016年の読了3冊目にして、今年最大のヒットになりそうな予感です。
2015年に、前作と今作をあわせてテレビドラマ化されていたので、一気にブレイクした感じですね。僕は観てないけど…。

評価/★★★★★


空飛ぶタイヤ(上)
(2006年刊/実業之日本社)

〔概要〕
走行中のトレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子を直撃した。
ホープ自動車が出した「運送会社の整備不良」の結論に納得できない運送会社社長の赤松徳郎。
真相を追及する赤松の前を塞ぐ大企業の論理。家族も周囲から孤立し、会社の経営も危機的状況下、
絶望しかけた赤松に記者・榎本が驚愕の事実をもたらす…。

〔感想〕
すごく面白かったけど、とてもやりきれない気持ちになりました。
大会社のお偉いさんは、口先では「お客様第一」とか言いながらも、結局優先するのは自社の利益であり
そのためには一般人が死のうが、下請け中小企業が倒産しようが、どうでもいいという現実。
フィクションでありながらも、身の回りで起きている様々な隠蔽事件の真相に迫っていると思えます。
ホープ財閥がスリーダイヤモンドに感じられてしょうがないと思っていたら、燃費隠蔽事件。
過去のリコール隠しで懲りているはずなのに、やっぱり体質は変わらない。
そんなやりきれなさを感じて、空しくなってしまいます。せめて小説の中だけでも、正義は必ず勝ってほしい!
下巻での展開にも期待です。

評価/★★★★☆


空飛ぶタイヤ(下)
(2006年刊/実業之日本社)

〔概要〕
事故原因の核心に関わる衝撃の事実を知り、組織ぐるみのリコール隠しの疑いを抱いた赤松。
だが、決定的な証拠はない―。激しさを増すホープグループの妨害。赤松は真実を証明できるのか。

〔感想〕
上巻同様、すごく面白かったけど、やっぱりやりきれない思いで読み終えました。
どんな大企業の理論だって、たった1人の人間の命より重いはずがない。
そう思っているけど、世の中の大部分の「エラい人たち」は、きっとこの小説の様なんだろうな。
この世の中は勧善懲悪には成り立っていないし、警察だって全ての悪を退治してはくれない。
結局、自分や家族の命を守るのは自分自身でしかないんだろうし、権力なんて信じられないよね。
そんな現実の世の中だからこそ、小説の中ではスカッと正義が勝ってくれて嬉しいです。

評価/★★★★☆


アルルカンと道化師
(2020年刊/講談社)

〔概要〕
東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとにとある案件が持ち込まれる。
大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版社・仙波工藝社を買収したいというのだ。
大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後にひそむ秘密の存在に気づく。
有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢がたどりついた驚愕の真実とは――。
明かされる真実に胸が熱くなる、シリーズの原点。
「半沢直樹」シリーズ第5弾。

〔感想〕
とても面白かったです。
銀行という閉ざされた世界の中での権力争いだけではなく、絵画に秘められた謎解きが面白かったので
ミステリーとしてもいい出来なんじゃないかなと思います。
時系列的としては第1作の『オレたちバブル入行組』前日譚ということになるみたいです。
今回の物語の中で「半沢には既に妻と息子がいて、過去に宝田部長をやりこめた」という経緯があるので
そんな前の話なんだというのは感じなかったけど。最初の頃の内容はさすがにそこまで覚えてないし。
今回も物語的には「銀行ヤクザ・半沢直樹」が人脈の力を借りて相手をやりこめというものなんだけど
それ以外にも、しっかりと仙波工藝社を救うための融資に奔走したり、謎解きをしたりしているので
以前感じたほどの嫌悪感はなかったかな。

評価/★★★★☆