文藝歴譜タイトル

伊坂 幸太郎 (1971.5.25−)
いさか・こうたろう
1971(昭和46)年、千葉県松戸市生まれ。東北大学法学部卒。
システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募。
1996年、『悪党たちが目にしみる』でサントリーミステリー大賞の佳作になる。
(同作はのちに全文改稿され、『陽気なギャングが地球を回す』として出版)
2000年、『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。
2003年、『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を受賞。
2004年、『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
2006年、『砂漠』で直木賞候補となる。
2008年、『ゴールデンスランバー』で第21回山本周五郎賞を受賞。
現在は宮城県仙台市に在住していることから、多くの作品で仙台市を舞台としている。

*読んだ著書*


ゴールデンスランバー
(2007年刊/新潮社)
映画化『ゴールデンスランバー』(2010年日本)

〔概要〕
首相公選制が施行されている日本。過去に、襲われようとしていたアイドルを救い一躍「時の人」となった宅配ドライバーの
青柳雅春は、そこから派生した一連の騒動が原因で仕事を辞め、職探しの日々。そんなある日、若くして選ばれた金田首相の凱旋パレードが、地元・仙台で行われようとしていた。旧友の森田森吾に何年かぶりで呼び出された青柳は、どこか態度のおかしい彼の様子を怪しむ。そんな青柳に、森田は「おまえは陥れられている。オズワルドにされるぞ。逃げろ」と、鬼気迫る調子で訴えた。その直後、パレード中の首相が爆弾で暗殺され、無実の青柳に濡れ衣が着せられてしまう。警察の銃弾から必死に逃れようとする青柳だったが、包囲網は確実に狭まっていくのだった…。
精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界。伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。

〔感想〕
この作家の作品は初見だったんですが、とても面白かったです。5部構成で、事件の始まりから、いきなり事件の20年後へ。そして、事件について、始めから詳しく説き始める。その構成が、とてもよかったです。始めはさらっと事実だけ語られて、まったく意味のわからなかったことが、実は後でちゃんとした伏線になっていたり。身に覚えのない全くの冤罪で逃げざるを得ない主人公はとてもかわいそうで、一日にして犯罪者扱い。でも反面ヒーロー扱いもされたりもして。現代社会の歪みみたいなものを描きつつも、独特のユーモア的エッセンスもあって。筆致的にも好みなテイストで、他の作品も読んでみたいと思いました。
<ここからネタバレ注意:マウスでなぞって読んでください>
おおむね満足ですが、小鳩沢がやっぱり違和感残るなぁ。街中でショットガン撃ちまくり。一般人撃ったり、ファミレスのガラス割ったりしてるのに、それをメディア的にも口封じって、いくらなんでも無理があるのでは。それを目撃している反体制的な一般人もいるだろうに。あと個人的には、最後の「痴漢は死ね」がツボでした。まさかこれまでが伏線とは。恐れ入りました。
2010年1月に本作の映画も公開されたということで、いつかそちらも観てみたいと思います。

評価/★★★★☆


モダンタイムス
(2008年刊/講談社)

〔概要〕
首相を選ぶ国民選挙や、徴兵制のある近未来の日本。システムエンジニアの渡辺拓海は、謎の失踪をした先輩社員に代わって、彼が手がけていたとあるプロジェクトを継続するよう命じられる。凄腕SEであるはずの先輩が、単純作業のはずの仕事内容をなぜ放棄したのか。訝りながらもプロジェクトに携わりはじめた拓海だが、その日から彼の周りでは不審な事件が頻発するようになるのだった…。

〔感想〕<ネタバレを多く含みます>
正直言って、面白くなかったです。最初のあたりはまだ面白かったんだけど、読みすすめるうちにどんどん違和感のようなものを感じて。最後はなかなかページが進まなかったです。最後の結末もなんかぼんやりしてるし。先に読んだ『ゴールデンスランバー』がなかなか面白かっただけに期待してたんだけど、勘違いだったのかなぁ。
必要以上に長すぎるし、説明はクドいし、意味深に見えて意味のない伏線(「勇気」という言葉の繰り返しとか、強すぎの妻とか)が多いし、不要な登場人物も多いし。そもそも、あの妻は不自然。謎の仕事(伏線かと思いきやそうではない)とか、一般人とは思えない強すぎな格闘術、理解を越えた残虐性、短絡性とか。キャラクターが全く理解できない。中盤まではシリアスな展開をコツコツ積み上げてきたのに、永嶋丈が出てくる終盤では、説明とか会話がかなり雑。言葉もいい加減だし、「そういうふうにできている」の一辺倒だけでは何も共感できない。なんか無理に盛り上げようとしてるみたいに感じるんだよね。
「ネットで検索」してみると、意外にも高評価なので驚きました。人気作家なんですねぇ。ってことで、評価は控えめにしておきました(笑)
本作が続編らしいので、一応『魔王』も読んでみるつもりです。

評価/★★☆☆☆


魔王
(2005年刊/講談社)

〔概要〕
両親を亡くし、弟の潤也と二人で暮らしている会社員の安藤の身に、ある日不思議な能力が覚醒する。それは、自分が念じた言葉を他人に語らせることが出来る能力だった。その能力を「腹話術」と名付けた彼は、ある一人の男に近づいていくのだが…。
それから五年後、弟の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさを追求した兄弟の物語。

〔感想〕
先に読んだ『モダンタイムス』の前編となる物語。こちらを後に読んでしまったので、「不思議な能力」とか「10分の1の賭け」とか、ある程度のネタはわかっていたので、あまり抵抗なくその世界観に入っていけたのはよかったけど…でもやっぱり、なんかしっくりこない感じの作品でした。現代日本の問題点とか、政治に対する社会的なメッセージを熱く語っているようでいて、登場人物が語っているのはかなり主観的に偏っている内容だったりするんだよね。そこにもってきて「不思議な能力」だから、あまり接点がかみあわないというか、それぞれ別のものを無理矢理一緒にしてるような気がするのかも。登場人物の設定とか、周りの環境をじっくりと積み上げているのに、終盤になって急にガタガタ物語を走らせるせいで、描写が大雑把になっているというか、強引すぎるというか。今まで読んだ3作がおおむね同じようだったから、そういう作風なのかも。合わないのかもなぁ、この作家とは。

評価/★★☆☆☆


アヒルと鴨のコインロッカー
(2003年刊/東京創元社)
映画化『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006年日本)

〔概要〕
仙台の大学に入学したばかりの大学生・椎名。引っ越してきたアパートで最初に出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けてきた。彼の標的は、たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか椎名は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだった…。
四散した断片が描き出す物語の全体像は?第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

〔感想〕
なかなか面白かったです。最初はちょっととっつきにくい印象だったけど、物語の全体像が見えてきた中盤あたりからはスラスラ読めました。『魔王』以前の作品でも感じた、「終盤になると唐突な駆け足になっていく」作者の作風?も垣間見えましたが、最後のコインロッカーのシーンは不思議な余韻を残しました。

評価/★★★☆☆


陽気なギャングが地球を回す
(2006年刊/祥伝社文庫)

〔概要〕
嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった……はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ!奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。
映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス!

〔感想〕
一言で言うと、「個人的には合わない」作品でした。なんというか、登場人物たちがみんな冷静すぎて、どんな出来事が起きてもかる〜く客観的に語っちゃうから、全く物語に入っていけませんでした。人物紹介的な序盤、展開がある中盤、そのあたりでなんとなく読み進めていったら、いきなり謎解きが始まってしまって。へぇ〜と思ってるうちに終わっちゃった、そんな感じです。力みのない会話の連続が、全く響かない感じで。よく言えばスタイリッシュなんだろうけどね。筆者の名前を世の中に知らしめた作品らしいけど、この筆者の作品は合う合わないがハッキリするなぁ。

評価/★★☆☆☆


陽気なギャングの日常と襲撃
(2009年刊/祥伝社文庫)

〔概要〕
嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、精確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリは殴打される中年男に遭遇――。天才強盗四人組が巻き込まれた四つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。
知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス!文庫化記念ボーナス短編付き!

〔感想〕
イマイチに思った作品の続編ということで全く期待せずに読んだんだけど、意外にもなかなか面白かったです。前作でしっかり4人のキャラは立っているので、余計な前振りもなく本編に入っていけるし、序章のそれぞれの物語は各人の特技を活かしたストーリーになっているよね。短編かと思いきや、それぞれの事件が伏線となっていきていて。最後の事件はちょっと無理矢理な感じもしなくはないけど、テンポもよくて爽快感のある作品でした。個人的には、ボーナストラックがけっこう好きかな。

評価/★★★★☆


陽気なギャングは三つ数えろ
(2015年刊/祥伝社ノンノベル)

〔概要〕
陽気なギャング一味の天才スリ・久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器・成瀬ら面々は断崖に追いつめられた!
必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが!
人気シリーズ、9年ぶりの最新第3作。

〔感想〕
ボチボチだったかな。今回はゲス記者・火尻のキャラが濃すぎるので、それに振り回される四人組が逆に弱々しく思えてしまいました。もちろんそれぞれの特性を活かした活躍はするんだけど、ホテルの防犯カメラ映像を盗むところとか、ちょっと無理がある気もするなぁ…。そもそも、火尻が久遠の正体に気づくのも強引。手をケガしてるだけで、強盗犯に直結するものだろうか?僕は他人のスキャンダルとか、ワイドショーとか好きじゃない(他人の痴話話とかどうでもいい)から、火尻みたいな人間が一番嫌い。自分で前向きな努力をするわけでもなく、他人をダシにコスズルイ稼ぎをするような人は、人間の屑だと思うぐらい。そういう意味では最後の結末はもっとスッキリしてもいいはずなんだけど…なんかモヤッとしたまま終わってしまいました。おばあちゃんの亀が嘘に使われたからかな?

評価/★★★☆☆


チルドレン
(2004年刊/講談社)

〔概要〕
「俺たちは奇跡を起こすんだ」
独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。
彼を中心にして起こる不思議な事件の数々。
何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。
ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。

〔感想〕
収録されているのは5つの短編ですが、共通して登場してくる人物がいるので、ひとつの長編みたいな感じに
読むことができます。ただ、それぞれの物語の時系列が違っているので、少しややこしいですが。
第1作の「バンク」がなかなか読み進められなかった。
主要人物二人、陣内と鴨居の二人の会話があまりにもシニカルすぎて、入り込めなくて。
「陽気なギャング」シリーズもそうだけど、こういう軽妙な会話がこの作家の最大の特徴だと思っているので
久しぶりに作品を読んで、世界観が腑に落ちるまで少し時間がかかったのかも。
そこを突破した2作目以降はなかなか面白かったです。陣内が「オレたちは奇跡を起こすんだよ」という
自信家ぶりは、実際にいろんな奇跡を起こすんですが、そのあたりはすごく爽快でした。
「失恋したオレのために世界は時間を止めた」と豪語する陣内と長瀬をめぐるミステリー、第3作の「レトリーバー」が一番面白かったです。
発刊から12年後の2016年に、続編『サブマリン』が発刊されたそうです。

評価/★★★☆☆


クリスマス・ストーリーズ
(2016年刊/新潮社)

〔概要〕
もう枕元にサンタは来ないけど、この物語がクリスマスをもっと特別な一日にしてくれる―。
六人の人気作家が腕を競って描いた六つの奇跡。
自分がこの世に誕生した日を意識し続けるOL、イブに何の期待も抱いていない司法浪人生、
そして、華やいだ東京の街にタイムスリップしてしまった武士…。
ささやかな贈り物に、自分へのご褒美に。冬の夜に煌めくクリスマス・アンソロジー。

  1. 朝井リョウ/逆算
  2. あさのあつこ/きみに伝えたくて
  3. 伊坂幸太郎/一人では無理がある
  4. 恩田陸/柊と太陽
  5. 白河三兎/子の心、サンタ知らず
  6. 三浦しをん/荒野の果てに

〔感想〕
 3.伊坂幸太郎/一人では無理がある
サンタが会社組織になっていて、プレゼントの物流や発注、配送をするという発想は面白い。
6つの作品の中では一番面白かったかも。

評価/★★★☆☆