葬送花


傷ついた羽を広げて大空を駈ける
身軽な鵯の群れと戯れながら
綿菓子のような雲を追いかける

朝焼けの大地を一陣の風が走り抜け
白い帆を立てて私を郷里の海へといざなう

夜になれば魚の群れと遊ぶ
月が照らす波間に浮かび
満ち潮にのせて言葉を伝えよう
太陽よ麦穂の平原に輝け
月よ漆黒の鏡面に銀糸を降らせよ
そして彼らを包む闇を追い払え
白き衣と苦悩の霧を葬れ

私は沼に咲く蓮の花になりたい
泥にまみれながらも
生命と詩情に満ちた花に

ひとひとらの花に過去の理を風の中で探しても
見えるのは現在の姿だけ

蒼白い月が昇ると沼の水面が闇に浮かび上がる
苦悩の中に喜びを見出し垂れこめた雲の中に七色の虹を見る
沈黙にとって言葉は音符を自在に奏でること
装飾の弦をかき鳴らして光線を震わせ
うつろな心の響きが彼らを故郷へと誘う

誰か伝えてほしい
大地の暖かき雄叫びを
河の蛇行の思慮深きささやきを
森の豊かな緑の尊さを

雨がどれだけ天から降れば涙の海はあふれるのだろう
幾とせ過ぎれば月は老いるのだろう

誰か伝えてほしい
真夜中に鎮座する満月の孤独を
希望の歌を歌いつづける星たちの輝きを
英霊たちの流れる生命の光の輝きを

儚く散った白い花の流れよ河となって
悲しみの小舟に夢をのせて故郷へと辿りつけ

私は歌おう
生命の詩を

私は歌い続けよう
喜びの詩を

2001.11.14
陰惨な謀の前に理由もなく奪われた人々の願いと夢に捧げます。


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