時の迷路


夕闇に包まれ街が表情を変えていく。
午後の日差しが残した熱気の中で、真夜中の木立が季節を伝えている。

いつか二人行った海にも、春は来たんだろうか。
紺碧の空と海が、二人の白い背中を熱く包んだ日々。

小さな窓から見た夕日が、何もかも変えていくように思えた。
遠く離れた丘の上で、鐘の音が静かに響いたような気がした。

大きな水車が回るのを、眺めていた。
水車は僅かな水をたたえて、重力の流れに沿って歯車を動かす。
人の手による滑車と、自然の作り出す穏やかなハーモニーがそこにはあった。

波の音も、空と海の青さも、風のささやきも、すべてが自然だった。
ただ、そこにたたずむ人々の・・・
その合間を通りぬける息吹だけが、時の狭間に迷い込んでいた。

「二人出会うのが遅すぎたのかな」
何度かそう思ったこともある。
だけど同時に、いつの日も君に出会えたことを感謝せずにはいられなかった。

季節はいつも急ぎ足で通りすぎるけど
過ぎ去った時間は近くて遠い昨日を映し出す。
ほんのひとときの「最高の瞬間」が
生まれたばかりの太陽と去りゆく月の影にとけていく。

あれからどれだけの夜を通りすぎただろう。
時の迷路の中で、今でも僕は探しつづけている。

2001.4.18


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