訣別の詞(わかれのうた)


今日、悪夢の夜以来の相棒と対面をした。
いつもお世話になっている自動車会社にレッカーで運んでもらったのだが
あの時は気も動転していたし、夜だったため、記憶も鮮明ながら曖昧であった。
今日、昼間にあらためて見ると事故の惨劇があざやかに脳裏によみがえった。
なんとも言えない衝撃と絶望感。
あらためて見た相棒は、もはや生命をもたない鉄屑と化していた。
目を背けたくなるくらいに辛かった。
だが、この相棒の姿を、目に焼き付けておかねばならない。
一生忘れることのない十字架を、心にかけて置かねばならないのだ。
相棒と走った1年3ヶ月。距離にして、21549km。
その墓標を心に留め置かねばならないのだ。

最後の姿

“遺品”として…幾つかの内装品をとりだした。
さらに、砕けたガラスの欠片をひとつ、手元に残しておいた。写真もとった。
だが、それ以上に多くの思い出が、いつまでも色褪せることなく僕の心の中で生き続けるだろう。
最後に、ドライバーズシートに再び座り、その感触、匂いを感じた。
ステアリングに額をつけて、相棒の最後の言葉を聴こうとした。
しかし、何も聞こえなかった。彼はすでに、死んでいるのだ。
エンジンもかからない。電気系統もすべてマヒしている。
ギアさえもイカレているのだ。
訣別に際して、詞を考えてみた。だが、謝意と悔恨の想いがつよかった。
詞にすることはできなかった。

彼は、僕の生命を救ってくれた。
その意味を考え、強く、優しく、生きていきたいと思う。

August 12, 1998

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