二つの絆


閉ざしてさえいれば
それは災禍なく過ぎていくだろう

信じていたことが頼りなく思えてしまうときは
きっとそれは既に崩壊への音色を奏でている

目に見える景色や
耳で聞こえる音や
肌で触れられる熱や
心で感じられるすべての事柄

それをすべてあるものとして正しいものとして
とらえることはとても危険だ

笑顔の影に裏切りの刃は常に潜み
何を契機として何時それが振り下ろされるのか
人はそれに気づくことができない
気づいたときには既に
脆い幻想にすがっていた心は壊されてしまっているから

何を信じればいいのか
誰を頼ればいいのか
何を話せばいいのか

何も信じるな
誰も信じるな
沈黙は己を守る盾だ

人に裏切られ 人に傷つけられ
人を裏切り 人を傷つけ
そうやって人は生きていく

II

知っていることがこんなにも苦しいなんて
知られないことがこんなにも悲しいなんて
だけどそれは誰にもわからない
せめて知らなければ
出会わなければ苦しまずに済むのに

せめてこれ以上人を傷つけないように
研ぎ澄まされた刃は自分の胸のうちにしまおう
自分の心が壊れていくのさえ耐えられれば
きっとすべては波風なく過ぎていくから
いつだってそうやって自分だけが苦しんで
だけどこんなふうにしか
不器用にしか僕は生きられない

いつかまた街角で出会えても
笑顔でやり直せるはずがない
もし8年前のあの秋に戻っても
僕はきっと違う道を選ぶだろう
後悔しているとか間違っているとは思わない
だけど再びあの道を歩くには
僕はもうたくさんのことを知りすぎている

音もなく壊れた二つの絆が
今も変わらずに
僕の心の中で乾いた音をたてて風に揺れている

2005.9.5


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