それでも来た道(2006.3.20)


むしゃくしゃした気分のまま、思うままに車を走らせた。
気がつくと、かつて何度も通った海岸通りを走っていた。

若い頃は、何度も何度も煩悶を投げかけていた海。
若過ぎて行き場所のない情熱の欠片を、うちよせる波にぶつけていたあの頃。
もうあの頃ほど若くはないし、感情よりも先に理性が立つようになった。
僕が大人になっていくにつれて、次第に失っていったもの。
それは多いようにも思えるし、少ないようにも思える。
大切なもののようにも思えるし、下らない些細なもののようにも思える。
過ぎ去った時間、棄ててしまった記憶に、どれほどの価値を見出せるだろう?

真っ暗な闇の中に、ぼんやりと広がる白い砂浜。
その向こうに、ぽっかりと口をあけたように広がっている漆黒の海。
その口の上に、時折見える白い牙のような波。

久しく見ていない、荒々しい日本海だった。
まるで夜そのものを飲み込もうとするかの如く、高く激しい波。
吹き付ける風こそ真冬のものではないけれど、まだ春を感じられない冷たさ。
そこにいるだけで、寒さよりも怖さを感じてしまうような海だった。

自分自身、どうしようもなく不器用だと思うときがある。
八方塞がりに陥っても抜け出せず、いつまでも同じ迷路をぐるぐると答えを探して
歩き続けているようなもの。決して答えは見つからないとわかっていても。

愚痴をこぼしたり、悩みを打ち明けたり、自棄酒で憂さを晴らしたり・・・
そういう解消法は、僕の中には重要な選択肢としては存在していない。
結局のところ、突き詰めてしまえば自分自身の内側で解決するしか方法を持たない。

だから自分を痛めつけ、その感覚を感じとることで自分を保っている。
荒れ狂う冬の日本海には、その強さがある。
圧倒的な自然の力の前には、一人の人間は途方もなく小さな影になってしまう。
コートの表面から熱はたちまち奪われ、衣服は瞬く間に冷たい包装紙になっていく。
肌をさす晩冬の風、容赦なくうちよせる波の飛沫・・・
その力の前に、怒りさえも無力なものになっていく。

道を見つけた。
たったひとつの、進むべき道を。
なのに人は、どうしてその道すらも疑ってしまうのだろう。
その道を進めば間違いがないとわかっているのに。
迷いながら、傷つきながら、それでも歩いてきた道。
昨日が音をたてて崩れていく上に、儚い今日という脆い砂の足場に立っている。
強く踏みしめれば、たちまちのうちに崩れていく道。
だけど強く信じなければ、決して渡りきることのできない道。

海に癒されているのか。
海に諭されているのか。
それとも、海に叱咤されているのか。
答えはやはり出ないけれど、この道を歩き続けていくしか道はない。


前へ タイトルページに戻ります 現在、これより先の作品はありません