蜃気楼(1998.4.12)


今日は天気がよかった。富山県の各地で夏日を記録するほどの陽気だった。
この時期、富山の新聞には独特の記事がある。
「今日の蜃気楼発生確率」
蜃気楼。言わずと知れた砂上の楼閣、ミラージュである。
富山県魚津市は日本で有数の蜃気楼を見られる街である。
紙面によると、今日の発生確率は70%ということだった。
70以上は「発生確率高し」という最高ランクである。
一度は見てみたいと思っていたので、出かけてみることにした。

魚津までは車で1時間もかからない距離である。
相棒のサニーも久々のドライブとあってご機嫌なようだった。
現地到着は午後2:30。蜃気楼が一番見やすい時間帯である。
クルマを停めて港へと向かう。同じ事を考える人はいるもので、
港にはカメラを持った人、若い集団、子供たちと
バラエティにとんだ人たちがいた。

埠頭に腰をおろし、気長に待ちはじめる。
去年も2回ほど挑戦したが、見ることはできなかった。
蜃気楼を見るのはとても難しく、そこに住んでいても見たことがない人は多い。
ほんとに一生モノの体験なのである。
空は澄んでいて、海は穏やかだった。

カモメが飛んでいた。彼(仮に)は翼を大きく広げて滑るように空を飛んでいた。
去年読んだ「カモメのジョナサン」を思い出した。
彼は水面に降り、両翼をたたんで水面に浮かんだ。
そのままゆらゆらと波に揺られながらしばらく浮かんでいた。
ふと水を蹴ると同時に翼をはためかせ、彼は再び空に舞い上がった。
そして沖の方へ、青空の彼方へと飛んでいった…。

陽気に眠気を誘われ、しばらく岸壁に横たわって眠った。

寒気に眼がさめた。青かった空には雲がひろがり、
波もすこし高くなったように思う。腕まくりをしていては寒くなってきた。
夕方から雨らしい。だが、雨の降る前には蜃気楼が出やすいとも聞く。
その後もしばらく待ってみたが、
結局今日も見ることはできなかった。

残念ではあったが、いつかは見てみたいと思う。
今の世の中に残された数少ないファンタジーのひとつだから。
オーロラを見るのにも同様の苦労がいるらしい。
見られるポイントに入ってから何ヶ月も待つこともあるとか。

こんなゆったりとした気分ですごせたのは久しぶりだった。
貴方も一度富山を訪れてみてはいかがですか?


これより前の作品はありません タイトルページに戻ります 次へ