文藝歴譜タイトル

横山 秀夫 (1957.1.17−)
よこやま・ひでお
1957(昭和32)年、東京都生まれ。国際商科大学(現在の東京国際大学)商学部卒。
上毛新聞社で記者として12年間をすごす。
1991年に『ルパンの消息』で第9回サントリーミステリー大賞佳作を受賞し、作家デビュー。
1998年、『陰の季節』で第5回松本清張賞を受賞。
2000年、『動機』が第53回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。
2002年の『半落ち』が直木賞候補作となるが、「作品内の設定に欠陥がある」として落選。
横山はミステリー作家たちだけでなく読者までもが侮辱されたと反論し、直木賞と訣別宣言をした。

*読んだ著書*


半落ち
(2002年刊/講談社)
映画化『半落ち』(2004年日本)

半落ち〔概要〕
「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。
動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。
梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか。その胸に秘めている想いとは…。

〔感想〕
面白くて一気に読んでしまいました。前からタイトルだけは知っていたけど、思っていた以上に面白かったです。
このあたりは個人的な嗜好になってしまうけど、特によかったのは、犯人である梶の思考があまり語られないこと。
それが逆にサスペンスの謎解き要素を重く、強くしているからね。梶の事件に関わる刑事、弁護士、検事、新聞記者らがそれぞれの主観で事件に関わっていくわけなんだけど、それぞれに抱えた葛藤や苦悩が絶妙に絡んでいくあたり、その鬱屈が晴らされきらずに一筋の光が見えたところで章が終わるのがなんとも言えない余韻を残してくれていい感じです。
オチについて話題が殺到したという話を知らずに読んだので、あまり違和感もなく読み終えました。
オチについては、引っ張ったわりには少し弱い気もしたけど、それを差し引いても、充分に面白い傑作だと思えました。

評価/★★★★★


クライマーズ・ハイ
(2003年刊/文藝春秋)
映画化『クライマーズ・ハイ』(2008年日本)

〔概要〕
1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは…。
あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。

〔感想〕
すごく面白かったです。著者自身が、実際に日航機墜落事故の現場に携わった地元新聞の記者ということで、リアリティがすごいです。特ダネをつかんでも、それが本当のことなのか、吟味しなければ記事にはできない。記者としての葛藤、先輩・後輩・上司という立場の間で繰り広げられる企業内冷戦。様々なエッセンスが込められていて、とても面白かったです。この本を読んであらためてこの事故に興味をもてたし、当時の史料が残るという「日本航空安全啓発センター」にも行ってみたいな。

評価/★★★★☆


64(ロクヨン)
(2012年刊/文藝春秋)

〔概要〕
D県警の広報室と記者クラブが、加害者の匿名問題で対立する中、時効の迫った重要未解決事件「64(ロクヨン)」の被害者遺族宅への警察庁長官視察が1週間後に決定した。わずか7日間しかない昭和64年に起きた、D県警史上最悪の「翔子ちゃん誘拐殺人事件」。長官慰問を拒む遺族。当時の捜査員などロクヨン関係者に敷かれた緘口令。刑事部と警務部の鉄のカーテン。謎のメモ。そして、長官視察直前に発生した新たな誘拐事件は、ロクヨンをそっくり模倣したものだった…。

〔感想〕
すごく分厚い小説ですが、とても面白かったです。最初はちょっととっつきにくかったけど、中盤あたりからグイグイと引き込まれました。根本的に僕は警察官という人種がニガテなので、その組織の腐敗とか、縦社会の弊害とかを見聞きすれば「それ言わんこっちゃない…」と思ってしまうんですが、彼らが持っているプライド、刑事たちが事件解決(本作では本能的な「狩り」にも例えられる)を追う様には心動かされるものがありました。現在住んでいる京都でも、王将の社長を殺した犯人は捕まらないし、解決されない事件も多い。加害者や犯罪を憎む気持ちは当然あるけど、警察がもっとしっかりしてくれたらなぁ…とも思うんですよね、やっぱり。縄張り争いや出世争いをしてるヒマがあったら、事件を解決しろと言いたいですね。
「D県」は横山氏自身がかつて上毛新聞の事件記者として活躍した群馬県を想定していると考えられ、その群馬県で昭和62年(1987年)に実際に起こった、5歳の男の子が誘拐され殺害された「荻原功明ちゃん誘拐殺人事件」。この事件は、日本の身代金目的誘拐殺人では戦後唯一の未解決事件で、「ロクヨン」のモデルとなったと考えられるんだそうです。

評価/★★★★☆