文藝歴譜タイトル

夏川 草介 (1978−)
なつかわ・そうすけ(男性)。夏川草介はペンネーム。
1978(昭和53)年、大阪府生まれ。信州大学医学部卒業。
執筆業の傍ら、長野県の病院にて地域医療に従事。
2009年、『神様のカルテ』で第10回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。
2024年、『スピノザの診察室』により第12回京都本大賞を受賞。

*読んだ著書*/著作リスト


神様のカルテ
(2009年刊/小学館)

〔概要〕
夏目漱石を敬愛し、妻・ハルを愛する青年医師・栗原一止(いちと)は、信州の小さな病院で働く、悲しむことが苦手な内科医。
町の病院「本庄病院」では常に医師が不足している。専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を三日取れないことも日常茶飯事だ。
そんな栗原に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。
だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。
悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった…。
神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。
読んだ人すべての心を温かくする、新たなベストセラー。

〔感想〕
とても爽やかな後味を残してくれた作品でした。医者が主人公というと『ブラックジャック』みたいな外科医が多く、派手な演出が多いけど
本作では、わりと地味な「地域のお医者さん」が主人公。毎日の多忙な日々におわれ、睡眠不足や過労だらけの地域医療の実情を浮き彫りにして
現代の医療制度の問題点にも警鐘を鳴らし…とか、そういう堅苦しいことは抜きにして、誰もが世話になりたいと思う、理想のお医者さんが描かれています。
僕は入院ってしたことがないけど、患者としては、やっぱり自分に親身になってくれる人が一番いいんだよね。多少古めかしい言葉遣いだったり、
古風ないでたちでも「自分のことを考えてくれてる」という気持ちが大事。
『めぞん一刻』みたいな愛すべき変わった住人住む「御嶽荘」も楽しい。
満開の桜の見送りのシーンが特によかったです。
登場人物たちの未来、恋愛、進路はまだ道半ば。もし続編が書かれればぜひ読んでみたいです。

評価/★★★★☆
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神様のカルテ2
(2010年刊/小学館)

〔概要〕
夏目漱石を敬愛し、信州の「24時間、365日対応」の本庄病院で働く内科医、栗原一止。山岳写真家の妻・ハルの献身的な支えや、頼りになる同僚、下宿先「御嶽荘」の愉快な住人たちに力をもらい、日々を乗り切っている。
そんなある日、本庄病院の内科病棟に新任の医師・進藤辰也が東京の病院から着任してきた。彼は一止、そして外科の砂山次郎と信濃大学の同窓であった。かつて“医学部の良心”と呼ばれた進藤の加入を喜ぶ一止だったが、赴任直後の期待とは裏腹に、進藤の医師としての行動は、かつてのその姿からは想像もできないものだった。戸惑う一止だったが、さらなる困難が本庄病院に訪れるのだった…。
映画化も決まった、大ベストセラーの続編。

〔感想〕
すごく面白かったです。このシリーズは、もう間違いない感じですね。
小説でも映画でも、連作の良し悪しってあるよね。「面白すぎる作品の続編はつまらない」というのもよくあるけど、オリジナル作品で紹介した設定を、引き続き使える強みもある。今作に関しては、後者の成功作。主人公の栗原一止はかなり風変わりな設定のキャラだけど、前作でそれが浸透している分、説明を繰り返すことなく、新しいストーリーや、新しい登場人物を物語に乗せていけるんだよね。そのことで、読者には「久しぶりに彼らに会えた」感があるし、スッと物語に入っていける(続編を先に読むことはできないけど)。
今回は、一止と次郎の旧友でもあるタツが出てきます。新しいエッセンスが加わることで、作品の世界観がいっそう彩り豊かなものになっています。
物語の後半はとても大きなドラマなので、かなりグッとくるものがありました。どんな名医でも、死を止めることはできない。できるのは、医師としてその瞬間に立ち会うことと、遺された友人として故人の人となりを愛し、心につなぎとめていくこと…。実際の医療の現場は知りませんが、こんな人間くさい医者がたくさんいてくれるといいな、そう思います。

評価/★★★★☆
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神様のカルテ3
(2012年刊/小学館)

新章 神様のカルテ〔概要〕
夏目漱石を敬愛し、信州の「24時間、365日対応」の本庄病院で働く内科医、栗原一止。新任の内科医として本庄病院にやってきた小幡先生は、内科部長である大狸先生の元教え子であり、経験も腕も確かで研究熱心。一止も学ぶべき点の多い先輩医師だ。しかし彼女は、患者自身の「治ろうとする意思」の強さ次第で診療方法を変えていた。抗議する一止に、小幡先生は「どこにでもいる偽善者タイプの医者」と言い放つ。彼女の医師としての覚悟を知った一止は、自らの医師としての姿に疑問を持ち始める。そして、より良い医者となるために、新たな決意をするのだった…。
豪華キャストで映画化もされた大ベストセラーの続編。

〔感想〕
すごく感動しました。高速バスの中で読んでいたんだけど、涙をこらえるのが必死でした。僕は「先生」と呼ばれる政治家などの人に対して、ある種の嫌悪感を抱いている時期があった。だけど、医師は特別。人は、そうありたいと願うわけでもなく、病気になってしまう。もちろん治りたいと願うわけだけど、気持ちだけではどうしようもない時がある。そういう時に手を貸してくれるのが西洋医学であり、医師たちだ。快気を願う患者、その家族、恋人、友人たちの想いを、気まぐれな神様に届けるための橋渡しをしてくれる、そんな存在が医師だと思う。本作の中でも手術のシーンが出てくるんだけど、そこに立ち会う人たちの心の推移が、すごく丁寧に描かれていると思います。手術が無事に成功したときに自然とあふれ出てくる涙は、何よりも純粋で、尊いものだよね。そういう時、神様の存在を、少しだけ信じてみたくなります。

評価/★★★★★
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神様のカルテ0
(2015年刊/小学館)

〔概要〕
信州大学医学部の学生寮「有明寮」で、穏やかな日々を過ごす一止、辰也、次郎たち。
国家試験を目前にした六年生の夏、仲間たちはそれぞれの事情を抱えながら難関突破への努力を重ねている。
そんな中、辰也の元に、東京の帝都大学から研修医採用試験の合格通知が届く…。
『神様のカルテ』にまつわる人々の前日譚。

〔感想〕
上記あらすじの「有明」など4本の短編を収録。シリーズでおなじみになった人々の前日譚です。特によかったのは「彼岸過ぎまで」と「神様のカルテ」。前者は病院改革を進める事務長・金山と、病院を護ってきた医師たちとの衝突、後者は本庄病院に入りたての研修医・一止と、指導医・古狸先生こと乾先生の物語です。人は、自分ひとりの人生しか生きられないが、物語を読むことで他人の人生を知ることが出来る。そうなると、嬉しい人、悲しい人、いろんな人に対して優しくなることができる。相手のことを想像し、思いやる心、それが優しさだと。そんな人間に僕もなりたいと日々思っています。
「冬山記」は一止とハルさんの出会いの物語かと思っていたんだけど、まだ独身時代のハルさんの壮絶な物語。「1」に対しての「0」だから、そうなるとそのあたりのエピソードは語られることがないのかな?ファンとしては気になるところではありますね。

評価/★★★★☆
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勿忘草の咲く町で〜安曇野診療記〜
(2019年刊/KADOKAWA)

〔概要〕
看護師の月岡美琴は松本市郊外にある梓川病院に勤めて3年目になる。この小規模病院は、高齢の患者が多い。 特に内科病棟は、半ば高齢者の介護施設のような状態だった。その内科へ、外科での研修期間を終えた研修医・桂正太郎がやってきた。くたびれた風貌、実家が花屋で花に詳しい──どこかつかみどころがないその研修医は、しかし患者に対して真摯に向き合い、まだ不慣れながらも懸命に診療をこなしていた…。
患者の数だけある生と死の在り方に悩みながらも、まっすぐに歩みを進める2人。きれいごとでは済まされない、高齢者医療の現実を描き出した、感動の医療小説。

〔感想〕
すごく面白かったです。信州を舞台に、若い医師が活躍するというテイストは『神様のカルテ』シリーズと同じなんだけど、ちょっと視点が違うだけで、だいぶ違うものになるね。基本的に病院の中だけで推移するので登場人物は少ないけど、どの人物もキャラが立ってて面白かった。特に、「死神」谷崎先生。言ってることは過激でも、その発言内容はすごく真理に迫るものなのかもしれないよね。日本の医療も、「看取り」とか「誇りある死」、「尊厳死」とかに真剣に向き合う時期が来ているのかもしれないね。

評価/★★★★☆


新章 神様のカルテ
(2019年刊/小学館)

新章 神様のカルテ〔概要〕
信州にある「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止は、より良い医師となるため信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めなければならない日々も、早二年が過ぎた。矛盾だらけの大学病院という組織にもそれなりに順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突してしまうのだった…。
舞台は、地域医療支援病院から大学病院へ。シリーズ320万部のベストセラー4年ぶりの最新作。

〔感想〕
大好きなシリーズなので、続編が描かれて嬉しいです。『3』の続編で、舞台は大学病院へ。利休、お嬢、番長、鬼切、双葉など、様々な新キャラも出てくるので、すごく新鮮です。一止は「白い巨塔」の中で様々な葛藤や苦悩にもがきながら、自らの求める真実への道を歩いていきます。細かいことは書かないけど、最後は涙をこらえるのに必死でした。こんなに「真面目」な医者に出会えたら、患者としては最高ですね。まだまだ先がありそうなので、楽しみです。

評価/★★★★★
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本を守ろうとする猫の話
(2017年刊/小学館)

〔概要〕
内気な高校生の夏木林太郎は、古書店「夏木書店」を営む祖父と二人で暮らしていた。
その祖父が突然亡くなり、店をたたもうとしていた時、店の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会う。
トラネコは、不思議な迷宮の主から本を助け出すため、林太郎に協力を求めるのだが…。

〔感想〕
『神様のカルテ』シリーズが有名な、現役の医者兼作家の筆者だけに、医者以外のネタは新鮮でした。
とはいっても、主人公の青年は「本が大好き」で「喋り方に少しクセ」があり、内気…となると、そのまんま成長すれば一止?と思ってしまう雰囲気。
しかし林太郎がふるうのはメスではなく、本を心から愛するがゆえの真摯な言葉たち。
すごくまっすぐなその様子は、少し子ども向けに感じてしまいましたが、本を愛し、大切に思う心を失いかけた現代人には突き刺さるのかも。
あと、タイトルがなんかイマイチだなぁ。ちょっと月並みかもしれないけど、『夏木書店へようこそ』とかの方がよくないかな?

評価/★★★☆☆


始まりの木
(2020年刊/小学館)

〔概要〕
藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生である。所属は文学部で、専攻は民俗学。
指導教官である古屋神寺郎は、足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける、偏屈だが優秀な民俗学者だ。
古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの”を千佳に問いかけてゆく。
学問と旅をめぐる、不思議な冒険が、始まる。

〔感想〕
ちょっと不思議なお話で、すごく面白かったです。夏川草介さんの新境地ですね。
自身も現役の医者であることから、彼の作品は医者や病院にまつわるものが多かったけど
今作の舞台は、医学ではなく、まさかの民俗学。
だけど、根底に流れる思想みたいなのは過去の作品にも通ずるものがありました。
学問を追求することは、人の心に安寧をもたらし、世の中に笑顔が増えていくことの手助けになる。
それは、医学でも、民俗学でも、文学でもきっと同じなんだよね。
医者って職業は多忙なはずなのに、こんな本まで書けるなんて、どんな時間の使い方をしてるんだろう。

評価/★★★★☆


臨床の砦
(2021年刊/小学館)

〔概要〕
2021年1月、消化器内科医・敷島寛治の勤務する長野県・信濃山病院は、コロナ診療の最前線に立っていた。
前年末から目に見えて感染者が増え始め、ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来たす状態。
医療従事者たちは誰もまともに休みを取れず、現場の印象は限界を迎えようとしていた。
そこに「第三波」が訪れ、敷島たちはさらに厳しい状況に追い込まれていくのだが…。
現役医師としてコロナ禍の最前線に立つ著者が、自らの経験をもとにして克明に綴ったドキュメント小説。

〔感想〕
すごく重いけど、克明に綴られている言葉のひとつひとつが現場のリアリティを感じさせてくれました。
筆者自身が現場で新型コロナウィルス治療に当たられている医師でもあるので、切実な叫びにも感じられました。
現場の皆さんは、自身や家族の生命を危険にさらしながら、感染の恐怖に耐えながら働いている。
それなのに、政府や、周辺の病院は暢気にかまえ「事態の収束」をつぶやいてすらいる。
一般人も、そんな彼らをばい菌扱いするような陰口をたたいている…。
最も悲しいのは無理解なんだと、あらためて思い知らされました。
こうしている今も、日本や世界のあちこちで「砦」を守られている皆さんの戦いに本当に頭が下がる思いです。

評価/★★★★☆


スピノザの診察室
(2023年刊/水鈴社)

スピノザの診察室〔概要〕
雄町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医である。
三十代の後半に差し掛かった時、最愛の妹が若くしてこの世を去り、
一人残された甥の龍之介と暮らすためにその職を得たが、かつては
大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。

哲郎の医師としての力量に惚れ込んでいた大学准教授の花垣は、
愛弟子の南茉莉を研修と称して哲郎のもとに送り込むが…。

〔感想〕
すごく面白かったです。『神様のカルテ』と同じように医療ドラマなんだけど、筆者自身が現役の医師だから
写実にもすごくリアリティがあるし、実際の医療に携わっているからこその葛藤や喜びなど
様々な感情が描かれているところも共感できました。
京都が舞台で、様々な甘味が登場するんだけど、僕も馴染みのあるものが多くて嬉しかった。
阿闍梨餅とか、出町ふたばの豆餅とか。
洛都大学は京大だろうし、あのあたりの景色を思い浮かべながら読みました。
登場人物のその後も気になるところですが、続編も出ているようです。

評価/★★★★★
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君を守ろうとする猫の話
(2024年刊/小学館)

〔概要〕
幸崎ナナミは13歳の中学2年生。喘息の持病があるため、あちこち遊びに出かけるわけにもいかず
学校が終わるとひとりで図書館に足を運ぶ生活を送っている。
その図書館で、最近本がなくなっているらしい。
館内の探索を始めたナナミは、青白く輝いている書棚の前で、翡翠色の目をした猫と出会う。
猫に導かれるまま不思議な迷宮に足を踏み入れたナナミは、灰色の男たちが守る城にたどり着くのだが…。

〔感想〕
『本を守ろうとする猫の話』の続編。読んだのはだいぶ前なので結論も覚えてないぐらい。
前作にも登場した林太郎も出てくるけど、主人公はナナミという少女。
本を大好きな少女が本を守ろうとするお話なんだけど、正直ボチボチだったかな。
迷い込んだ迷宮で大変な思いをするんだけど、ナナミは喘息を患っていてそこまでのアクション性もないし
将軍や宰相、王と問答をするシーンは哲学的ではあるけど、そこまでのダイナミズムも感じなかったし。
小学生か中学生向けぐらいの童話みたいな物語だなぁというのが正直な感想です。

評価/★★☆☆☆


1 神様のカルテ
神様のカルテシリーズ
2009/08 小学館 ★★★★☆
2 神様のカルテ2
神様のカルテシリーズ
2010/09 小学館 ★★★★☆
3 神様のカルテ3
神様のカルテシリーズ
2012/08 小学館 ★★★★★
4 神様のカルテ0
神様のカルテシリーズ
2015/02 小学館 ★★★★☆
5 本を守ろうとする猫の話
本シリーズ
2017/02 小学館 ★★★☆☆
6 新章 神様のカルテ
神様のカルテシリーズ
2019/02 小学館 ★★★★★
7 勿忘草の咲く町で〜安曇野診療記〜 2019/11 KADOKAWA ★★★★☆
8 始まりの木 2020/11 小学館 ★★★★☆
9 臨床の砦 2021/04 小学館 ★★★★☆
10 レッドゾーン 2022/09 小学館
11 スピノザの診察室 2023/10 水鈴社 ★★★★★
12 君を守ろうとする猫の話
本シリーズ
2024/02 小学館 ★★☆☆☆
13 エピクロスの処方箋 2025/09 水鈴社